0から始める高校化学まとめ
化学の勉強を始めようと思っても、理論化学、無機化学、有機化学など多くの範囲があってどこからどうやって勉強すればいいかわからない。
そんな方に、高校化学の全体像、学習のポイントをまとめました。
理論化学と無機化学と有機化学
まずは高校化学を構成する、理論化学、無機化学、有機化学がどんなものか把握しましょう。これらの区別をしなくても勉強をすることはできるのですが、知っておいた方が勉強の効率化につながります。
理論化学、無機化学、有機化学はそれぞれ独立しているように見えますが、実は互いに密接なつながりがあります。
3つの関係は、上の図に示した2通りの考え方があります。
1つは理論、無機、有機の範囲が互いに重なり合っているという考え方です。それぞれに特有の内容はありますが、一部が重なり合う部分があります。
そしてもう1つは、理論化学という土台の上に、無機、有機化学があるという考え方です。
どちらが正しくて、どちらが間違っていると決めるのは難しいところです。なぜなら、各々が勉強して理解する過程で、どちらの考え方になるかが決まるので、勉強を始める前には決めることができないのです。
理論化学、無機化学、有機化学はそれぞれに特徴があります。理論、無機、有機化学それぞれがどんなものなのかを簡単に解説します。
理論化学とは
理論化学は、モデルや数式を使って、考察したり予測したりする化学です。
理論から作られたモデル、数式や、多くの実験から構築されたモデルを使って考えます。つまり、一般的、普遍的な前提を使って問題を解いていく、というイメージです。
理論化学に含まれる単元としては、物質の構造、物質の反応、物質の状態があります。
これまでに構築されたモデル、数式を使って、物質の構造・反応・状態を理解する、またはこれらについての問題を解く、という分野です。
高校化学の範囲から出題される問題のうち、計算を含んでいる問題は、この理論化学の理解がないと解くことができません。
無機化学とは
無機化学は、元素単体、あるいは無機化合物についての分野です。無機化合物は、有機化合物の対をなすものとして定義されています。
後でも触れますが、有機化合物は炭素を含む化合物のうち、一酸化炭素、二酸化炭素のような単純なものを除いた化合物を指します。ですので、無機化合物は、それ以外の化合物を指します。
元素単体は、金属元素と非金属元素という分け方と典型元素と遷移元素という分け方があります。勉強するときには、この分け方を上手く使う必要があります。
また、化合物の構造も重要です。構造が曖昧なままだと、有機化学でさらに複雑な構造が出てきたときに苦労します。
有機化学とは
有機化学は、先に述べたように有機化合物を扱う分野です。
有機化合物は炭素を含む化合物、ただし一酸化炭素及び二酸化炭素のような単純な化合物を除いた物質を扱います。
合成、反応についてが中心になります。高校のうちは実感がないかもしれませんが、生化学や高分子化学は有機化学が基礎になっています。
有機化学が得意になると、就職などで将来の幅が拡がります。若い方々には是非ともマスターして欲しい分野です。
理論化学、無機化学、有機化学どれから学習するべきか?
この3つの分野、どこから勉強を始めたらいいのでしょうか?適当に手をつけると理解に時間がかかるばかりでモチベーションも下がってしまいます。
下の図に勉強を進めるときのスケジュールを示しました。
まずは、無機化学から始めましょう。化合物は有機化合物と比べて単純ですので、とっつきやすいと思います。
平行して理論化学の勉強も始めますが、ここでコツがあります。
無機化学と理論化学を独立して進めると、進捗速度が思うように上がらずにモチベーションに影響します。
無機化学のある問題を解こうとしたとき、理論化学のモデル・数式が出てきたとします。その時はいったん理論化学へ行って、使うモデル・数式を必要最低限勉強します。その後、無機化学に戻って問題を解きます。
そして無機化学が終わったら、その日のうちに使った理論化学の部分を復習、または深化させて学習しましょう。
こうやって平行状態で勉強を進めます。そして無機化学がある程度進んだら、目安としては反応式まで到達したら、有機化学に着手します。
有機化学を勉強しているときにも、理論化学との往復は忘れないで下さい。
進めているうちに、無機化学・有機化学との往復では触れない理論化学の箇所が出てきます。ここが目立ち始めたら、独立した理論化学の勉強で押さえていきます。
1日の化学の勉強サイクルは、
1.無機化学・有機化学を勉強しながら、使うモデル・数式を理論化学で勉強する。
2.使ったモデル・数式の深い部分をその日の化学の勉強時間の最後に学習する。
となります。
そして、長期的な視野で見た化学の勉強サイクルは、
1. 無機化学から着手、理論化学と平行して勉強する。
2. 反応式に入ったら、有機化学に着手、理論化学と平行して勉強する。
3. 無機・有機化学の勉強で触れなかった理論化学の部分を押さえる。
理論化学を先にやり切るという手もあるのですが、モデル・数式は無機・有機化学の応用問題に触れながら勉強すると定着が早くなります。
まずは、理論化学を使って、無機化学、有機化学の問題を解く、というイメージで勉強を進めましょう。
理論化学の学習ポイントまとめ
理論化学の学習ポイントを、単元別に見ていきましょう。
理論化学の単元を大まかに分類すると、
1. 物質の構造について
2. 物質の状態について
3. 物質の反応について
この3つに分けることができます。
しかし、これらを勉強する前にどうしてもやらなければならないことがあります。
この3つ全ての基本となる、元素の周期表の暗記です。これは必須です。この勉強は、後で解説する「物質の構造 ~原子から結晶構造~」の勉強の一部になります。
そして勉強する時の注意点ですが、計算などをする場合、計算の過程、考え方の過程はノートに書き留めて残しましょう。
きれいな字でなくともかまいません。自分が読める程度の字で問題ありません。間違えたときに、どこを間違えたのかをさかのぼれる状態にしておくことが重要です。
物質の構造 ~原子から結晶構造~
先に書いたように、まずは元素周期表の暗記です。平行して、物質の対象単位とされている原子について、原子がどんな物質から構成されているかを把握しましょう。
これは、後々アボガドロ定数の理解、モル計算の理解で必要になる概念です。原子を構成する物質を把握していないと、この後の分子、結晶の理解が難しくなります。
原子を把握したら、次は分子、そして結晶構造という道筋で勉強しましょう。イメージとしては、勉強する物質を大きくしていくイメージです。
「物質の構造 ~原子から結晶構造~」について学ぶ
物質の状態 ~気体・液体・固体~
気体、液体、固体で重要になる事の一つに、分子間力の理解があります。
気体では、ボイルの法則、シャルルの法則、ボイル・シャルルの法則の理解を最優先させて下さい。ここから気体の状態方程式の理解までは一気に勉強しましょう。
そして、理想気体と実在気体では何が違っているのか、この違いが問題ではどう扱われているのかを勉強しましょう。気体については、問題を解きながら勉強するのが良いかもしれません。
液体は、溶解度、再結晶が関係してきます。ヘンリーの法則は必ず押さえましょう。
この気体・液体・固体の三態を勉強するときには、平行して熱力学の勉強をすると、スムーズに進みます。
「物質の状態 ~気体・液体・固体~」について学ぶ
物質の状態 ~体積・密度・モル~
ここでポイントになるのは計算です。計算力というよりも、どういう計算をするか方針が立てられるかどうかがポイントです。
計算ミスはしない方がいいのは当たり前ですが、勉強当初は計算ミスを気にせずに、どういう計算をするかという方針が正しいか間違っているかに気を配って下さい。
計算力は訓練で伸びますので、繰り返しやっているうちに自然と伸びます。計算方針の考え方が正しいか間違っているかを気にしながら勉強して下さい。
「物質の状態 ~体積・密度・モル~」について学ぶ
物質の反応 ~反応と反応速度~
化学反応の式を勉強するのは無機・有機化学なので、理論化学での反応は主にエネルギーの出入りになります。
まずは発熱・吸熱から始まり、生成熱、溶解熱、中和熱など、反応に必要なエネルギー、反応によって放出されるエネルギーを学ぶ単元です。
熱化学方程式の理解が重要ですが、平行して反応式も書けなければならないので、まずは無機化学と平行しながら勉強しましょう。
この単元は、そういった反応の速度を学ぶ単元でもあります。
反応速度を勉強するときには、問題を解きながらが最も効率のよい勉強方法です。
実験データを示して、そこから反応速度に関連した設問がされる、これが出題される問題の王道です。
問題を解きながら、間違えた部分の知識、考え方の修正を繰り返しましょう。
「物質の反応 ~反応と反応速度~」について学ぶ
物質の反応 ~酸と塩基、酸化と還元~
最初にやらなければいけないのは、酸とは何か、塩基とは何か、違いは何なのか。同様に、酸化とは何か、還元とは何か、違いは何か、です。
キーワードは、電子と酸化数です。これさえ理解すれば、酸化・還元は難しいと感じることはないと思います。
反応を覚えるときには、反応の前後をしっかり覚えればなんとかなります。余裕がない場合は、まず反応前後を頭に入れることから始めましょう。
「物質の反応 ~酸と塩基、酸化と還元~」について学ぶ
物質の反応 ~電気分解~
電池の原理を学ぶ単元です。イオン化傾向を押さえれば、すんなり勉強することができます。
物質の構造で電子というもののイメージがつかめていれば、電子の流れが想像しやすいと思います。
もし、電子の流れの理解がいまいちだった場合は、もう一度物質の構造を見直しましょう。
「物質の反応 ~電気分解~」について学ぶ
物質の反応 ~化学平衡~
この単元で最重要なのは、ルシャトリエの原理です。
化学平衡は、高校の理論化学のまとめ的な単元です。これまでに勉強したことをほとんど全て使って理解する必要のある単元です。
「化学反応が平衡状態にあるとき、条件変化(濃度・圧力・温度などの変化)によって、正反応または逆反応が進んで、新しい平衡状態になる」
この考え方をまずは頭に入れて勉強しましょう。何かが変われば安定が崩れるので、物質達は新しい安定を求める、この理屈をしっかり覚えて下さい。
この単元は、他の単元との複合的な問題が作られますので、試験では大きなポイントとなる単元です。
ルシャトリエの原理が理解できたらすぐに問題を解き、どんな方向性で問題が出題されるのかをなんとなくでも把握していると、試験ではこの単元に強くなれます。
また、化学平衡は高校の理論化学の総まとめ的な内容の単元ですので、化学平衡の問題を多く解くことによって、理論化学全体の復習にもなります。
「物質の反応 ~化学平衡~」について学ぶ
無機化学の学習ポイントまとめ
無機化学は元素の性質を理解することが重要です。後で説明する有機化学は化合物の性質が重要になりますが、無機化学では、まずは元素レベルでの性質を把握しましょう。
そして、元素と元素がどう結合しているのかが、無機化合物の理解には必須です。
単元はそれほど多くない印象ですが、多くの化合物を扱うので、単元の割に覚えることが多い分野です。
元素 ~重要な元素の性質~
まず勉強する元素は水素です。水素の性質から着手して下さい。
水素の性質を勉強した後は、すぐに、ハロゲン化水素、フッ化水素、塩化水素の3つの性質を勉強して下さい。この3つの水素化合物はよく出題されます。
そして、6つの重要な元素の性質へと進みます。
この時、6つの元素を3つのグループに分けて勉強して下さい。
まずは炭素とケイ素、14族の元素です。炭素は有機化学で重要ですが、ここで炭素単体の性質を押さえておきましょう。
窒素とリン、これらは15族の元素です。さらに、16族の酸素と硫黄。このように、6つの元素を、族ごとに分けて勉強します。
「元素 ~重要な元素の性質~」について学ぶ
元素 ~金属とイオン~
金属は、まずアルカリ金属、アルカリ土類金属、両性金属という大きなくくりで勉強を始めましょう。
これらの性質を勉強した後に、それぞれの元素の性質を勉強します。この時に、同時にイオン化した場合の性質も押さえて下さい。
必ずやっておかなければならない元素は、鉄、銅、銀、クロム、マンガンです。
元素の性質を押さえた後は、各金属の代表的な化合物を勉強しましょう。化合物を勉強する際は、これらの金属化合物が、どういう条件で沈殿するか?をしっかり押さえて下さい。
金属化合物の沈殿は、試験に頻出します。
「元素 ~金属とイオン~」について学ぶ
化学結合
先に述べた化合物を勉強する際に、結合の形態についての記述が目に入るかもしれません。
化合物の化学結合については、各元素と化合物の性質を勉強するときに、平行してやってしまうこともできます。
しかし、ここでは、化学結合の種類を把握してから、各化合物の化学結合に進むことをおすすめします。
化学結合については、まずは結合全体を大まかに勉強してから、各化合物の化学結合に手をつけた方が理解が早い傾向にあります。
「化学結合」について学ぶ
有機化学の学習ポイントまとめ
p>有機化学は高校化学の中でも後半に習うので、受験の準備には時間が足りなくなります。
しかし、高校の有機化学は「構造の決定」さえできれば高得点が見込めます。
ただし、難問を作ろうと思えば作りやすい分野でもありますので、得点差がつきやすい分野とも言えます。
まず、最初にやって欲しいことは、ベンゼン環(上に画像を掲載しました)の中に、Cが何個、Hが何個あるのかを絶対に覚えることです。
有機をやっていると何気なく書いてしまうようになりますが、その中に炭素原子と水素原子が何個あるのかは絶対に忘れないで下さい。
有機化学の基礎 ~命名法~
有機化合物の名前は、ある法則に従ってつけられています。
大学の専門レベルの命名法を覚える必要はもちろんありません。高校の教科書、参考書の命名法を覚えるだけで十分です。
この覚える過程で、Cがいくつ、Hがいくつだとどういう名前になる、という知識が手に入ります。
この知識は構造を決定するときに便利な知識です。時々命名方法に戻って勉強し、知識を確実なものにしましょう。
「有機化学の基礎 ~命名法~」について学ぶ
有機化合物 ~まずは官能基~
有機化合物の性質は、この官能基で決まります。
まずは官能基の名前、構造式、性質、不飽和度を整理しておきましょう。代表的な反応もいっしょに勉強すると効果的です。
どの官能基が結合するのかによって、その化合物の性質は大きく変わります。できれば、どういうものに結合すると化合物全体がどういう性質になる、というレベルまで押さえておけば、後になって楽になります。
「有機化合物 ~まずは官能基~」について学ぶ
有機化合物 ~大きな括りで覚えよう~
有機化合物を覚えるときには、大きな括りで整理すると覚えやすくなります。
まずは、アルカン、アルデヒド、エステルなどの化合物です。これらを覚えるときには、アルカンとシクロアルカン、アルカンとアルキンというペアで覚えましょう。
教科書もこのような組み合わせで書いてあることが多いのですが、これはかなり覚えやすさに配慮した書き方になっています。
次に、芳香族の化合物です。環状不飽和有機化合物とも言われ、ベンゼン環を持つ化合物が非常に多いカテゴリーです。
そして、糖類、アミノ酸、タンパク質、などの高分子化合物です。これらは生命科学と密接な関係がある化合物群です。
最後に、繊維、合成樹脂など、工業的になじみのある化合物があります。
「有機化合物 ~大きな括りで覚えよう~」について学ぶ
有機化合物の構造決定
構造決定は種々の試験問題によく出されます。
有機化合物の構造決定についてネットで検索すると、かなり難しいことが書いてあります。
しかし、高校の有機化学で必要な構造決定は、それほど難しくありません。
構造決定の問題は、推理するためのヒントが与えられます。このヒントは問題の中でいくつか提示され、そこから化合物を特定して構造を決定します。
ここで必要なのは、これまで勉強してきた”性質”です。官能基などの性質から、候補を絞り込んでいきます。
構造決定の問題を解くときには、なぜそう考えたのか?をノートの隅にメモしておきましょう。間違えた場合の原因がすぐにわかり、復習に便利です。
そして、反応が絡んでくる問題も出題されます。
反応については、ただ暗記するだけでなく、「なぜその反応が起こるか?」の理由をはっきりさせましょう。これは、「なぜその反応が起きるのか?」が設問になるケースも多々見られるからです。
「有機化合物の構造決定」について学ぶ
まとめ
理論化学、無機化学、有機化学とは何か、そして理論化学の学習ポイントを解説してきました。
理論化学に限らず、化学の勉強は書くことが重要です。計算、反応式などをノートに書き留めましょう。
化学の間違えの多くは、「考え方の誤解」「考え方の間違い」です。計算間違いは勉強時間が蓄積していくと少なくなっていきます。しかし考え方の間違いは、その間違いの箇所に気づいて修正しない限り、延々と間違え続けます。
化学の勉強を少しでも効率よくしたいのであれば、最も重要なのは「自分の間違いの原因をなるべく早く突き止める」ということです。
そのためには、自分の考えた経緯を書き留めて、すぐに見直せるようにしておくのが最も効率がいい勉強方法です。
授業のノートとは別に自分の化学の勉強用ノートを作って、そこへどんどん書いていきましょう。教科書をきれいにまとめたりする勉強方法は、意外と時間がかかって効率的ではありません。
教科書、参考書をざっと読み、すぐにその範囲の問題を解いてみましょう。その勉強用ノートに問題を解く過程の自分の考え方を書いていきましょう。
自分の考え方の間違いは、赤などのペンで区別できるように直せば、最終的にあなた専用の参考書ができあがります。この参考書を使ってさらに勉強を進めれば、化学を得意科目にすることもそれほど難しくはありません。