林業と水産業 | 0から始める高校地理まとめ

林業と水産業の単元は、そこまで頻出というわけではありませんが、学習していないといざ出題された際には解けない問題が多く存在します。しかし、押さえるべき事項はそこまで多くはありませんので、確実に理解を深めていきたい単元になります。

メイン画像

はじめに

林業と水産業はそれぞれ大きく発達している国々があるため、それら国がどこであるのかを理由と併せて理解することが大切になってきます。その中でも林業は、材木の種類やその分布、用途が重要になりますし、水産業は、どういったところで発達しているか、何が獲れるか、そして日本の水産業がどのように歩んできたかが重要になってきます。

林業

林業とは、森林を伐採することで木材を生産する産業のことです。日本を例に挙げると、国土の2/3を森林(山地)が占めているわけですので、古くから林業が発達しています。しかし、日本よりも多くの木材を安価で供給出来る外国が台頭してきたことにより、日本の林業は衰退の一途を辿っています。それに加えて、国内では林業従事者の大半が65歳以上の高齢者であり、人口減少や林業を志す人材が減少していることによって、後継ぎ問題が顕著になっています。

森林の役割

林業は木材を生産するだけではなく、森林を適切に管理する役割もあります。では、なぜ森林を守っていく必要があるのかという点になりますが、これは国公立大学の論述試験で出題されやすいので、その役割を理解しましょう。

  • 温室効果の抑制

森林は、光合成によって、二酸化炭素を吸収して酸素を供給します。二酸化炭素は地球温暖化の原因と言われていますので、森林を守っていくことが、地球が抱える環境問題の拡大を抑えてくれているというわけです。

  • 土壌保全

森林は、土壌侵食や土砂の流出を防ぐ働きをしています。つまり、森林がなければ、雪崩や土砂崩壊が起こりやすくなるわけです。

  • 生態系の保全

森林には豊かな自然があるため、様々な生物が暮らしています。もちろん、私たちの生活や保養にも重要な役割を果たします。

  • 漁業への恩恵

意外に思われるかもしれませんが、森林と漁業には強い結びつきがあります。具体的には、森林の土壌には豊富な栄養が蓄えられており、それが降水によって、河川を通じて海に流出します。魚類は栄養が豊富な場所に集まりますので、豊かな森林を育み、守っていくことで、行業の発展にも繋がるというわけです。

世界の林業

林業は、砂漠が広がっているエリアを除いて、世界各地で広く行われています。しかし、各地域の広がる森林は気候や土壌の影響を受けて、様々な種類が分布しています。本単元では、様々な森林について解説しますが、まずはどういった地域にどのような木々が広がっていて、どういった特徴を持っているのかという点だけに焦点を当てて、概要を掴むように学習してみましょう。

  • 熱帯林

熱帯林は赤道周辺に広く分布している森林で、世界の半分を占めています。赤道付近は、高温多湿の気候が広がっているため、森林をはじめとした植生が豊かになりやすいというわけです。
特色としては、様々な種類の木々があることや、交通が不便な場所に発達していることから、消費地から遠い地域に分布しています。さらには、硬木と呼ばれる材質が非常に硬いことが特徴的なため、ラワンやチーク、マホガニーと呼ばれる特殊材の搾取が中心となっています。これらは、それぞれ建築材や合板、家具や器具を作成する際に利用されています。
また、昨今では、養殖場を開設するために、マングローブ林の破壊が問題となっています。事例を挙げると、タイでは日本向けのエビを養殖するために、マングローブ林の伐採が進んでいます。
なお、赤道付近に広がる熱帯雨林は、地域によって呼称が変わり、アマゾン川流域ではセルバ、アジアやアフリカ地域ではジャングルと呼ばれます。これらは、マングローブ林と同様に、世界的な乱伐が起こっていますので、かなり問題視されている環境問題の一つになります。

  • 温帯林

中緯度地域の温帯が広がる地域に分布しているのが温帯林となります。温帯林は、常緑広葉樹林から針葉樹林まで幅広く広がっていますが、メインは常緑広葉樹林となります。熱帯林とは逆に、消費地に近い場所に多く分布しているため、早くから伐採が進んでいましたが、人工林も非常に多い点が特徴的です。
この常緑広葉樹林の中にも種類があり、テストや大学受験では広く問われる範囲となりますので、それぞれの特徴を押さえていきましょう。

①常緑広葉樹林
広葉樹
常緑広葉樹林は文字通り、常に緑の葉がなっている木々で成り立つ森林を指します。主に熱帯や温帯に分布していますが、温帯では寒さが厳しくなると落葉します。

(1)照葉樹林
亜熱帯から温帯、特に、温暖湿潤気候(Cfa)や温帯冬季少雨気候(Cw)に広く分布する葉の表面が照っている樹林のことを照葉樹林と言います。この樹木は寒さや降水の少なさにも耐えられる特徴を持ち、クスやシイ、カシの木が代表例となります。

(2)硬葉樹林
地中海性気候(Cs)に広がっており、夏の高温乾燥に耐えられる硬い葉が特徴的な樹林を硬葉樹林と言います。オリーブやオレンジ、月桂樹、コルクガシの木が代表例となります。

  • 冷帯林

針葉樹
冷帯林は文字通り、冷帯(D)に広がっている樹林を指し、針葉樹林から構成されています。この針葉樹林はロシア語でタイガと呼ばれています。
針葉樹林は、木の高さや太さが均一で、材質の軟らかい軟木であるため、非常に加工しやすいことから、乱伐が起こっています。

森林伐採について

先述の通り、世界中では森林伐採が広く行われており、これが生態系を崩したり、環境問題として取り上げられたりしています。ブラジルでは、都市と地方の経済格差を是正するために、地方の積極的な開発が行われていますが、これには森林を切り拓くことが欠かせません。また、タイの養殖場についても、日本向けに輸出するエビを育てるために、マングローブ林を伐採しています。このようになぜ森林が伐採されているのかという点についても、記述問題で出題されることがありますので、留意しておきましょう。

水産業

水産業においては、世界の漁場はどこにあるか、そしてそこでは何が獲れているかが重要になってきます。また、日本の水産業についてもその変遷が問われやすいため、その点の理解を深めるだけで、十分な対策になります。

世界の主要漁場

世界の主要漁場は、暖流と寒流のぶつかるところ(潮目/潮境)に分布しています。そこでは、渦流によって上昇流が発生するため、海底に沈澱していた栄養類が上昇し、プランクトンが豊富に発生しやすい状態となっています。つまり、潮目には様々な種類の魚が集まりやすいため、好漁場となるわけです。ですので、世界の海流がどのような方向に流れているかを理解し、そのぶつかる場所を見ておくだけで、主要漁場の位置は理解出来るようになっています。

世界の主要漁場

上記は世界の主要漁場を示した地図で、最低限理解しておかなければいけないものになります。

①太平洋北西部漁場
日本付近に分布するこの漁場は、漁獲高や様々な種類の魚が圧倒的に多く、漁獲高については、世界全体の30%以上を占めています。その大きな理由となっているのは、日本海流黒潮)と千島海流親潮)の潮目です。その位置は、岩手県や宮城県の三陸海岸沖で、イワシやサンマ、サバ、カツオが豊富に獲れます。また、オホーツク海周辺では、サケやマス、スケトウダラ等が漁獲されています。

②太平洋南東部漁場
主にペルーやチリの太平洋沿岸地域に分布している漁場で、こちらも非常に漁獲高が多いことが特徴です。第二次世界大戦後に大きく成長した漁場で、ペルー海流の影響で好漁場となっています。この漁場で獲れるのは、何と言ってもカタクチイワシで、アンチョビや魚粉に加工され、世界に輸出されています。
非常に活発的な漁場ですが、この漁場が属する太平洋南東部はエルニーニョ現象ラニーニャ現象の影響を受け、海水温が不安定になりやすいため、漁獲高が気候に左右されやすいという点も理解しておきましょう。

③太平洋中西部漁場
インドネシアからフィジー等、太平洋の島国にまで広がっている漁場です。近年、急激に発展してきており、マグロのはえ縄漁や日本向けに輸出されるエビの養殖が盛んに行われています。

④大西洋北東部漁場
北海に広がる漁場で、古くから発達している伝統的な漁場です。北大西洋海流と東グリーンランド海流がぶつかっており、バンクと呼ばれるプランクトンの豊富な浅堆が分布していることや、トロール漁と呼ばれる底引き網漁でニシンやタラ、マグロ、カレイ等が漁獲されています。

日本の水産業

今日の日本において、水産業は世界でもトップクラスに盛んな国と言っても過言ではありません。しかし、漁業の姿は形を変えながら、今日に至っています。その変遷は出題されやすいため、必ず理解しておきたい内容になります。

  • 漁業スタイルの変化

高度経済成長期以降、日本の水産業を牽引していたのは遠洋漁業でした。遠洋漁業とは、大型船を用いて、長期間の漁に出る漁業になります。オホーツク海でも北洋漁業と呼ばれる遠洋漁業が行われていますが、1973年に各国が排他的経済水域(EEZ)を導入したことや、石油危機オイルショック)の発生、1980年代に制定された国連海洋法条約の影響で、日本の遠洋漁業は大きく衰退することになりました。それ以降は、遠洋漁業と同等に発達していた沖合漁業や、小型船を用いて日帰りで行う沿岸漁業が、漁業スタイルの中心となっていきます。
また、近年では、獲る漁業から育てる漁業へ変化を遂げています。育てる漁業とは、カキやノリ、貝類やエビを海面で、ウナギ、アユ、マス、ワカサギ等を湖沼で養殖する方法が確立されたり、人工的に孵化した稚魚を海に放流し、それらが成長した後に改めて捕獲するという栽培漁業が発達したりするもので、今日の日本では様々な漁業スタイルが広がっています。なお、日本では、養殖の技術が世界的に進歩しており、2002年には、近畿大学で初めて人工的にマグロの孵化を成功させています。

  • 水産業の問題点

このように様々な方法を用いて、日本のみならず、世界の水産業は発達してきました。しかし、良いことだけではなく、様々な問題が発生したのも事実です。その一つが、先述の林業でも記載した、養殖場の開設による環境問題の発生になります。
先ほどの事例を挙げると、日本は消費される大半のエビを、タイやインドネシア、マレーシアと言った東南アジアの国々から輸入しています。これらの国々では、養殖場を開設するにあたり、マングローブ林を破壊しなければいけません。それに加えて、新たに養殖場の移転に伴って、旧養殖場の土地はそのまま放棄されてしまうという問題点も浮かび上がっています。そして、この養殖場は新たにベトナムやインド、バングラデシュにまで拡大していますので、養殖場に伴う環境破壊はますます広がっていくことが予想されます。

  • 日本は世界一の輸入国

世界的に漁獲高の多い日本ですが、全盛期と比較すると、その量は減少してきているため、現在は水産物の多くを輸入に頼っています。中国やアメリカ、東南アジアの国々からサケやマス、エビ、マグロ等を多く輸入しています。

  • これからの漁業

日本の水産業は、漁獲量の減少や、漁業従事者の半減によって、その存続が危ぶまれています。それに加えて、高度経済成長期に設定された排他的経済水域や、近隣国との漁業協定の影響を受けて、水産業に係る制約は厳しいものになってきています。
しかし、その中でも、育てる漁業を発達させてきており、獲る漁業と併せてバランスの良い漁業を並行していきながら、漁業の後継者問題に取り組んでいかなければいけません。

さいごに

以上で林業と水産業の単元は終了となります。それぞれの産業で、どのような場所にどういったものが分布しているのかが問われやすいのと同時に、大きな課題に直面している点が頻出です。特に、課題の部分については、記述問題で出題されやすいため、それぞれの背景を理解しておきたいところです。
今回の単元は、他の分野と比べると関連性が少ないように思われるかもしれませんが、例えば、林業の分野では、植生が大きく影響してきますので、気候の単元が頭に入っていないと理解がスムーズに進まない可能性があります。逆に、気候の単元が理解出来ていれば、覚えることには苦労しないはずです。
このように、過去に学習した単元の知識との関連性が地理にはありますので、特定の単元を極めるというよりかは、様々な単元を幅広く見ていくことをおススメします。

頻出の単元ではありませんが、それぞれの産業で、大きな課題を抱えていますので、その背景を理解することで、他の単元を学習する際に役立つことになります。
 おすすめの勉強アプリはコチラ