農業 | 0から始める高校地理まとめ

私たちの生活になくてはならない農業は、どの様に発達するのでしょうか。
これには「たまたまそこに発達をした」という理由はなく、必ず成立要因が隠されています。その理由を探し出すことが、農業において、必要なことになります。


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はじめに

農業の単元で意識することは、「なぜそこにその種類の農業が分布するのか」という背景を考えながら、理解を深めていくことです。地理では「そうなる理由」を常に押さえながら学習することが重要ですが、特に農業や工業の単元では、人が大きく関わってきます。簡単に言えば、人が農業や工業を始めるようになったわけですから、当然、そこには農業や工業が分布・立地する理由が必ずあるというわけです。ですので、これらの単元は、その理由を押さえるだけで、理解のスピードは格段に上がります。

農牧業の立地条件

農牧業の立地条件は、自然的条件社会的条件の2つに分類されます。ただし、灌漑(かんがい)や品種改良等で自然的条件を克服してきたり、社会的条件でもその制約を乗り越えたりした事例は見られるため、農牧業の立地条件は、あくまで一般論として捉えて下さい。

  • 自然的条件

自然的条件には、気温や降水量、土壌、地形があります。気温の高低や降水量の多少はイメージを掴みやすいと思いますが、地形の傾きによって、日光の当たり具合が変わってきますし、土壌の性質によっては、農業が出来ない場合もあります。先述の条件が揃う地域は、世界的な穀倉地帯になっていることが多いです。なお、未開地域ほど、この自然条件のよる影響を受けやすいと言われています。

  • 社会的条件

農牧業の立地条件は、社会的条件も大きな要素です。例えば、新鮮な野菜をいち早く大都市に届けたいとなると、当然、大都市に近い地域にその農業が立地する(=近郊農業)ことは想像に難くありません。さらには、高速道路が整備されたことによって、より遠くから新鮮な野菜が出荷可能になるといったような事例(=遠郊農業)もあります。このような社会的条件は、文明や経済の発展水準が高い地域が影響を受けやすいと言われています。

土地生産性と労働生産性

高校地理では土地生産性労働生産性という単語をよく目にすることになります。この2つの単語は、農業の特性を理解するうえでは必須になりますので、その違いを区別出来るようにしておくことが求められます。

  • 土地生産性

例えば、一定の広さを誇る農地で、30kg分の農作物を生産した場合と、50kg分の農産物を生産した場合は、後者の方が土地生産性は高いと言えます。土地生産性は、一例として、農薬や肥料の進歩によって、向上する傾向があります。

  • 労働生産性

例えば、1人で30kg分の農作物を生産した場合と、2人で30kg分の農作物を生産した場合は、前者の方が労働生産性は高いと言えます。「1人あたりどれだけ生産出来たか」という視点で見ると、前者の方が多く生産しているため、そのように言うことが出来るというわけです。労働生産性は、一例として、機械化が進行することで、向上する傾向があります。

農業の大分類

私たちは様々な目的で農業をします。例えば、自分たちが生活する分だけを生産する形態もあれば、もとより出荷を目的として生産する形態もあるわけです。それぞれ、生産される農作物も大きく変わってくることになります。
大きく3つに分類されますので、それぞれの特徴を押さえていきましょう。

自給的農業

こちらは文字通り、自分で消費することを目的に発達した農業のことです。自分で消費する分だけを生産するわけですから、生産量にも限界があります。しかし、自給的農業は農業の起源と言われており、現在でも多くの地域で行われています。

自給的農業

上記の地図は、自給的農業に分類される農牧業の分布を示したものです。ここからそれぞれの農業がどういった場所に分布しているか、そしてなぜそのような場所に分布しているのかという理由を、自分なりに考えてみましょう。
それでは、上記の地図を頭に入れながら、それぞれの農業について、特徴をお伝えします。

  • 遊牧

遊牧は、水と草を求めて、家畜とともに移動するというものです。「水」と「草」を求めるわけですから、定住しているとそれらが得られないというわけです。それは何故でしょう?
その理由の一つに、そもそも降水量の少ない地域だからということが挙げられます。遊牧が分布する地域は、砂漠が広がっていたり、高緯度地域で雨が少なかったりします。ですから、定期的に移動をする必要が出てくるわけです。また、そもそも降水量が少ないとなると、水を多く必要とする農作物は栽培が非常に難しいということに気づいたでしょうか。もし、仮にコメの栽培が出来るのであれば、わざわざ移動せずに、定住して稲作をするはずです。このようにして、遊牧は主に降水量が少ない地域で発達するというわけです。
ちなみに、それぞれの地域で飼育されている家畜は異なります。砂漠が広がる地域では、ラクダやヤギ、羊が飼育され、寒冷な地域ではトナカイが、山岳地帯のチベット高原ではヤク、アンデス山脈ではリャマアルパカが飼育されています。

  • 焼畑農業

焼畑農業は、草原や森林を焼き、その灰を肥料として農作物を栽培する農業です。乾季の終わりに火入れをし、その土地で1~2年ほど農作物を栽培した後に、別の場所に移動します。移動する理由は、焼畑農業に使用された農地は地力が衰退するためで、地力が回復するまではその農地は使用出来ません。
草原や森林を焼くわけですから、当然それらが分布する赤道周辺の地域で行われる農業です。アフリカ大陸やインドネシア、南アメリカ大陸の低緯度地域に分布していることが、地図からも読み取れるはずです。地域によって異なりますが、東南アジアではバナナ、アフリカや南アメリカではキャッサバ(タピオカの原料として有名)やタロイモの栽培が伝統的に行われてきました。

  • 集団的稲作農業

コメの9割はアジアで生産されています。それにもかかわらず、その大半は自国で消費をされるため、輸出割合は小さいことも特徴的です。なお、タイはコメの輸出国として有名です。
モンスーンアジアという言葉があるように、アジアは季節風の影響を受け、非常に降水量が多いです。稲作に適する降水量は年間1500㎜以上であり、そのため、豊富な水を活かして、水田を張り、コメを生産する農業が発達したというわけです。
アジアでは農業従事者が非常に多く、コメの生産に多くの人数をかけていることから、労働生産性は低いことが特徴です。
しかし、発展途上国では、緑の革命と呼ばれる高収量品種の開発や、農業機械の導入により、労働生産性が飛躍的に向上し、食糧問題が大きく改善された地域もありますが、農家間の経済格差を拡大させることに繋がりました。

  • 集団的畑作農業

アジアの中でも、年間降水量が1000㎜未満の地域に分布しており、小麦や綿花、大豆などが生産されています。その特徴は、労働集約型の農業であり、やはり、労働生産性は低くなります。
なお、中国では稲作と畑作の分布境界がチンリン山脈とホワイ川を結んだ線と言われており、年間降水量1000㎜の境目となっています。

商業的農業

販売を目的とした農産物を生産する農業を指します。分布の大半は、ヨーロッパやアメリカ大陸になる点も押さえておきましょう。
なお、商業的農業はその土地の気候や都市との距離などによって、農作物や形態が変わってくることを理解しておきましょう。

商業的農業

上記の地図は、商業的農業に分類される農牧業の分布を示したものです。先述の自給的農業と比較すると、農業分布が大きく異なっている点に気づけると非常に良いです。主に、中緯度地域に分布しており、赤道付近で広がっている農業と比較すると、降水量が少なくても栽培可能な農作物が見られる点が非常に重要です。なお、企業的農業の際にもお伝えしますが、商業的農業と企業的農業は立地が似ています。ここでは、分布する地域の細かい違いを覚えようとするのではなく、「どちらもこの辺りに分布している」というイメージを頭に入れておきたいところです。

  • 混合農業

混合農業はヨーロッパが起源で、古くから行われています。この農業は、食用の小麦やじゃがいも、トウモロコシ等の栽培と、家畜の飼育をセットで行うものです。元々は、三圃(さんぽ)式農業という、夏作物・冬作物・休閑地に農地を三等分する農業から発達したものです。特に、西ヨーロッパやアメリカでは商業的農業の特色が強いですが、東ヨーロッパでは、自給的に行われている場合があります。
なお、混合農業が行われている地域は、入試等で出題されやすく、ヨーロッパでは、バイエルン地方、アメリカではプレーリーアルゼンチンではパンパで広く行われている点を頭に入れておきましょう。

  • 酪農

乳牛を飼育し、そこから牛乳やバター、チーズ等を生産する農業です。冷涼で大都市に近い地域に発達する傾向があります。ですので、ヨーロッパやアメリカの大都市に近い地域に多く分布していることになります。その理由として、乳製品は鮮度が命で、すぐに届けられるよう、大消費地である都市へ輸送しやすい地域に立地するためです。なお、冷涼な地域に発達するということは、気候の単元でも取り扱いましたが、降水量が少ない地域と同義になります。酪農の写真を見れば分かりますが、基本的に農地は草の丈が低いことからも降水量が少ない点が読み取れます。

  • 地中海式農業

夏に高温乾燥することから、オリーブやブドウ、オレンジ等の柑橘類、冬に小麦等の栽培をする農業です。地中海式農業という名前ですが、地中海周辺だけで行われているわけではありません。主に、地中海性気候(Cs)が分布する地域で行われていると考えてもらえば、問題ありません。

企業的農業

多くの資本や労働力を集約し、商業的農業以上に利益を追求する大規模な農業を指します。生産と販売を最大限に効率化するため、一つの農作物・家畜を集中的に生産する形態が取られ、農業の機械も進行しているため、労働生産性が非常に高いことも特徴です。


企業的農業

主に、新大陸と呼ばれる、南北アメリカやオーストラリアで広く行われていますが、商業的農業と立地が似ている点は区別がしにくいと思います。しかし、企業的農業は商業的農業がさらに大規模になったものだと考えれば良いので、立地が似通るのはある意味当然と言えます。

  • プランテーション農業

プランテーション農業は、熱帯地域を中心に、広大な農地に大量の資本が投下され、商品作物を単一的に大量生産する農業のことです。現在でも、発展途上国において、多く見られ、安価な労働力を用いて、大量に生産する形が取られています。そして、その作物の生産が、一国の農業を大きく支えているモノカルチャー経済に陥っている事例も多く見られます。
例)エチオピアのコーヒーや、ガーナのカカオ、エクアドルのバナナ等

  • 企業的牧畜

企業的牧畜は比較的降水量の少ない地域で行われています。特に、アメリカのグレートプレーンズではフィードロットと呼ばれる、出荷前に家畜を太らせるための施設で大規模な牧畜がおこなわれています。アルゼンチンの乾燥パンパでは、肉牛の飼育のほかに、小麦やアルファルファという牧草が輪作されている光景が見られます。

  • 企業的穀物農業
  • 広大な農地で、大型機械を用いて、小麦やトウモロコシ等の穀物を大規模に栽培する農業のことです。アメリカのプレーリー北部やカナダでは春小麦、プレーリー南部では冬小麦の栽培が盛んで、オーストラリアでは、スノーウィーマウンテンズ計画によって、灌漑施設が整われ、南東部では、大規模な農業地帯が広がっています。

      世界のアグリビジネス

      農業に関わる一連の産業をアグリビジネスと言います。具体的には、農産物の生産→収穫→加工→流通→販売のような、一連の流れをイメージして下さい。急速に国際化が進行している昨今、アグリビジネスも大きく拡大していますし、この一連の流れをすべて受け持つ多国籍企業(穀物メジャー)も存在感を増しています。

      遺伝子組み換え作物

      アメリカやブラジル、アルゼンチンを中心として、遺伝子組み換え作物の生産が急速に拡大しています。遺伝子組み換え作物は、害虫や除草剤に強く、従来の品種改良よりも早く確実に改良が可能なため、世界で導入が進められています。農作物の代表例に、トウモロコシや綿花、大豆等が挙げられます。

      さいごに

      農業の単元は以上で終了となります。理解しなければいけない内容が非常に多く、大変だったかもしれません。しかし、冒頭でお伝えした「なぜそこにその種類の農業が分布するのか」という背景を考えることが、理解のスピードを大きく向上させます。特に、気候からアプローチをしていくことで、立地の原因を突き止めやすくなりますので、気候の知識が定着していない場合は、そちらから着手することも考えましょう。
      なお、地誌では、各地域をさらに細かく見ていくことになりますので、本ページに記載された内容を最低限、理解しておくと後々の学習に役立ちます。

    まずは一つひとつを細かく見ていくのではなく、概要だけを掴むようにしましょう。
    その概要を押さえることが出来れば、詳細な内容もスムーズに理解出来るでしょう。
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