工業 | 0から始める高校地理まとめ

私たちの生活に欠かせない携帯電話や家電製品は一種の工業製品になります。しかし、一口で工業製品と言っても、その用途や作られる場所は大きく異なります。本単元では、工業が成り立つ背景を掴むことが目的になります。

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はじめに

工業の単元では、工業の成り立ちやその歴史についてを学び、その後に、どのような場所にどのような工業が発達するかを覚える必要があります。工業の大原則は、どこに立地すれば、利益が最大になるかを常に考えることにあります。利益を最大化するためには、どうすれば良いかについては後述となりますが、生産する工業製品によって、その方法は大きく変わってきますので、その点は必ず理解しておきたいポイントです。
また、工業の単元では、世界の工業地帯やそこで生産されているもの、また、日本国内ではどのような場所にどのような工業が発達しているかを取り扱います。これらの立地も、やはり、利益が最大化しやすい場所に立地していますので、まずは立地の原則について、基本的な内容を理解していきましょう。

工業の発達

現在の工業は機械化が進み、短時間で多くの製品を生産することが出来るようなりました。しかし、工業が発達した中世に機械はなく、簡易的な道具と手作業で自給的に製品を生産していました。イメージは、家の中で手作業をして製品を作るといったようなものです。
しかし、近世になると、商人が手工業者に原料や道具を貸し出し、それを使って製品を生産させて利益を得る問屋制家内工業が発達しました。
さらに、大商人(いわゆる資本家)の元では、工場が建設され、そこで労働者を雇い、道具を使って商品を生産する体制が整いました。これを、工場制手工業マニュファクチュア)と言い、商品の分業生産体制が出来上がりました。工場制手工業の誕生により、資本家と労働者の区分が明確に浮かび上がるようになりました。
そして、工業を飛躍的に成長させるきっかけとなったのが、イギリスで起こった産業革命になります。産業革命では、新たに機械が登場することになります。これによって、工業の中心は手工業から機械工業へ転換することになり、工場には機械が導入され、工場制機械工業による大量生産が実現することになりました。
工場制機械工業の登場により、短時間で大量の製品が生産することが出来るようになったため、利益はますます大きくなり、資本主義経済の様相が強まっていくことになります。
それ以降も、機械工業はますます発達していくことになり、繊維や衣服の生産といった軽工業から、製鉄や機械の生産といった重工業へ発達していきます。
現代では、重工業以外のほかに、エレクトロニクス産業やハイテク産業が発達しており、工業の最先端化が進行しています。
さらには、国家間の連携が強まることで、社会の国際化が生じ、多国籍企業が登場したり、国際分業体制が整備されたりしました。その結果、貿易摩擦や産業の空洞化が発生する等、新たな問題が発生しています。

工業立地の条件

立地因子と立地条件

工業がどのような場所に発達するのかという条件については、下記図のように、立地因子立地条件の2つに分類されます。

工業立地の分類

輸送費や生産費によって、立地が左右されるものを立地因子と言います。輸送費であれば、原料や生産を輸送するにあたって、どれくらいの費用が掛かるのか。そして、どの場所に立地すれば、輸送費を最小化し、利益を最大化出来るのかという点に焦点が置かれます。一方、生産費については、どこで生産すれば、利益が最大化出来るのかという点に焦点が置かれますが、この生産費には、人件費や電気代、工場の土地代等を差し引いたものになりますので、いかにこれらの費用を安くできるのかという点が重要になります。輸送費と生産費は「どれだけ節約することが出来るのか」という観点が重要になりますので、立地因子は「費用を抑え、利益を最大化する立地」のようなイメージで覚えておくと良いでしょう。
自然条件と社会条件によって立地が左右されるものを立地条件と言います。自然条件とは、例えば、気候や地形、付近に河川があるか等で立地が左右されるものを言います。一方で、社会条件とは、交通の便が良かったり、情報や人が多く集まったりする場所に左右される条件となります。

ウェーバーの工業立地論

ドイツの経済学者であるA.ウェーバーは、工場をどこに作れば良いかという点を様々な条件から分析し、工業立地論を展開しました。
ウェーバーは、まず、利益を最大化させるためには、生産費を抑えることが一番重要になると考えました。そして、その中でも原料や製品の輸送費が最も安くなる場所に工場が立地すると説きました。ただし、人件費がより安い場所が存在する場合は、そちらに立地が偏る場合とも説明を加えています。
このように輸送費や人件費等、工業生産には利益以外にも支出も発生します。利益を上げる方法は、売上を上げる以外にも、コストを削減するという選択肢もあります。特に、工業立地論では後者のコスト削減に焦点を当てて学習することが非常に重要です。

立地による工業分類

工業はその製品の原料がどういった特徴を持っているかによって大きく立地が変わってきます。例えば、原料は重いが、製品にすると軽くなるセメントやパルプは、現地で加工し製品化した方が輸送費を抑えられるため、原料の取れる場所に工場が立地します。

  • 原料指向型工業

〇代表例〇
パルプ・セメント・陶磁器・生糸
原料の取れる場所に立地する工業になります。先述の通り、製品よりも原料の方が重い為、現地で加工してから軽量化してから市場に運ぶ方が、輸送費を抑えられます。代表例に記載された製品が生産される場所は、市場よりも山間部に多い傾向があります。

  • 市場指向型工業

〇代表例〇
ビール・清涼飲料水・機械・出版印刷・食品
市場に近くに立地する工業になります。例えば、ビールや清涼飲料水の原料は水となりますが、水はどこでも入手可能ですので、大消費地の近くで生産して製品を運ぶ方が、輸送距離が短くなるため、輸送費を抑えることが出来ます。また、出版印刷は、最新の情報や流行を取り扱うため、それらの情報が得やすい市場(大都市)に立地する傾向があります。

  • 交通指向型工業

〇代表例〇
製鉄・造船・石油化学・IC
交通指向型工業は、主に港湾や空港の近くに立地する工業になります。例えば、製鉄や石油化学の原料となるのは、鉄鉱石や石油になります。これらの原料は、日本では採れないため、海外から輸入する必要があります。ですので、輸入に便利な港湾の近くに工場が多く立地するというわけです。日本でも、製鉄工場や石油化学コンビナートは沿岸部に多く立地しており、太平洋ベルトはその象徴でもあるわけです。
また、IC(集積回路)は、小さい製品ですが、高単価であるため、一度で大量に輸送できます。つまり、生産費に占める輸送費の負担が少なくなるため、多少輸送費がかかっても、大量に運ぶことが出来る飛行機を利用出来るよう、空港の近くに立地します。なお、国内輸送においては、トラックを利用して輸送するため、輸送に便利な高速道路の近くに工場が立地し、その代表例が、九州のシリコンアイランドや東北のシリコンロードと呼ばれるIC工場の集積地帯となります。

  • 労働力指向型工業

〇代表例〇
衣類・電気製品(組み立て)・ハイテク産業
原料と製品の重さがほとんど変わらないものについては、輸送費はあまり問題にされません。そうすると、労働力を多く得られる場所に工場が立地します。その代表例は衣服や組み立て産業となり、これらは、安価な労働力を得やすい場所に工場が立地しています。身近な事例を挙げると、店頭で販売されている衣服の多くは中国産やベトナム産です。これは、国内で生産するよりも、輸送費をかけて現地で生産する方がまだ安いということです。
また、ハイテク産業については、非常に高度な知識が要求されるため、優秀な人材が多く集まる場所に立地します。その代表例がアメリカのシリコンバレーで、GoogleやFacebook、アップル、インテルなど、世界的に著名な企業が多く集積しています。

  • 用水指向型工業

〇代表例〇
紙・化学繊維・精密機械
これらは、軟水が取れる場所が良いとされています。また、精密機械の生産にはきれいな水が必要となり、日本国内では長野県の諏訪湖周辺が頻出で、この辺りでは、時計やカメラの生産が盛んなことで有名です。また、外国では、スイスが時計の生産で有名です。スイスはアルプス山脈の麓にあり、空気と水がきれいなことで知られています。

  • 電力指向型工業

〇代表例〇
アルミニウム・化学肥料
これらを精錬する際には大量の電気を使用するため、電力を得やすい場所に工場が立地します。

世界の工業地域

続いて、世界の工業地域を見ていきます。ここでは、細かい内容をお伝えせずに、大まかな内容のみをお伝えします。詳細な内容は地誌で取り扱いますので、まずは概要を理解しましょう。

工業地域の分布

ヨーロッパ

①ブルーバナナ
イギリスのロンドンからドイツ、北イタリアまでの地域は、ヨーロッパの重工業地帯と言われ、その形から別名「ブルーバナナ」と呼ばれます。かつては、北フランス・ルール地方・ロレーヌ地方を結ぶ重工業三角地帯がヨーロッパ工業の中心でしたが、ロレーヌ鉄山やルール炭田の衰退によって、現在はブルーバナナへと中心が移行しています。

②ヨーロッパのサンベルト
サンベルトとはアメリカで現在、工業の中心となっている地域のことですが、そのヨーロッパ版だと考えて下さい。スペイン東部からフランス南部、そしてイタリア北部にかけての地域を指し、電子機器や航空機といった高度な技術が必要とされる工業が発達しています。

アメリカ

③スノーベルト(フロストベルト)
アメリカ北部に地域で、かつてはアメリカの工業を牽引していた工業地域のことです。付近のメサビ鉄山やアパラチア炭田の恩恵を受け、ピッツバーグやデトロイトでは、鉄鋼業や自動車産業が発達していきました。しかし、1970年代前後に、日本やドイツが台頭してきた影響で、競争力を大きく落としてしまい、かつての勢いがないことから、スノーベルトフロストベルト)と呼ばれます。

④サンベルト
アメリカ南部で、北緯37度以南の温暖な地域をサンベルトと言います。スノーベルトに対し、1970年度以降に、豊富な資源や労働力が確保出来るこの地域に多くの工場が進出していく形となります。
現在は、航空機産業や宇宙産業、ハイテク産業が盛んで、現在のアメリカ工業を大きく牽引しています。
その中でも、西海岸のサンノゼ付近に分布するシリコンバレーは世界のハイテク産業を代表する地域で、世界中から優秀な人材が集まってきています。

中国

⑤中国の発展と現状
第二次世界大戦後までは、東北地方の重工業や上海の綿工業が中心であった。しかし、1978年に改革開放政策、1979年に経済特区を設置したことで、1980年代以降は、外国資本が流入し、一気に工業化が進みました。特に、経済特区の設置は、税金面を優遇する等して、外国企業が中国に進出しやすい状況を作り出したため、中国経済の発展に大きく貢献したと言えます。
豊富な労働力を抱えているということもあり、様々な工業が急激に成長し、2000年代に入ると、中国は「世界の工場」と呼ばれるようになり、世界有数の工業国になりました。

インド

⑥インドのIT産業
インドは理数系に強い人材が多く、かつ、アメリカとの間にある半日の時差を活かして、急速にIT産業を発達させてきました。半日の時差を活かすというのは、例えば、アメリカが夜に仕事を終え、その仕事をインドの方へ委託すると、インドは朝を迎えていますので、タイムロスなく仕事を引き継ぐことが出来るます。つまり、円滑に業務を遂行することが出来るというわけです。

その他の地域

  • BRICS

現在、工業の発展が著しいブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカをまとめてBRICSと呼びますので、覚えておきましょう。

  • アジアNIES

輸入代替型工業を中心に、工業を発達させ、1970年代以降に大きく経済発展を遂げた韓国、シンガポール、香港、台湾をまとめてアジアNIESと言います。NIESは新興工業経済地域を意味します。

さいごに

これまで工業の分類や世界の工業地域を学習してきました。工業の単元では、「いかに生産費を抑えて製品を生産するか」が重要となり、それに応じて、工場が立地してきました。工場立地の背景を読み取ることで、理解のスピードが向上しますので、その点を意識して、さらに深く内容を見ていくことが望まれます。

まずは、工業の立地原則を理解して、そのあとに世界の工業地域を見ていきましょう。各国の詳細な内容は地誌で取り扱います。
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