化学変化と原子・分子
この単元では化学反応について学習します。
物質の変化には状態変化のほかに、「化学反応」(化学変化)があります。
元の物質とは全く異なる物質ができる変化なので難しそうに感じるかもしれませんが、物質を原子・分子として考えていくことで、反応式や質量保存についても理解が深まります。
それではこれらについて学習していきましょう。
物質の成り立ち
炭酸水素ナトリウム、酸化銀の分解
炭酸水素ナトリウムという物質があります。
炭酸水素ナトリウムを図のように加熱すると、気体、液体、固体が発生し、以下のような結果が得られます。
- 発生した気体は石灰水に入れると白く濁る → 二酸化炭素
- 試験管の口に液体が溜まり、塩化コバルト紙につけると赤(桃)色に変わる→水
- 加熱前の炭酸水素ナトリウムと加熱後に残った白い固体を、それぞれフェノールフタレイン液に入れると、炭酸水素ナトリウムは薄い赤色になったが、加熱後の物質のほうは濃い赤色になった → 炭酸水素ナトリウムとは別の物質(炭酸ナトリウム)
つまり、炭酸水素ナトリウムを加熱すると、二酸化炭素と水と炭酸ナトリウムが得られます。
炭酸水素ナトリウム(重曹)とは、ベーキングパウダーに含まれている物質です。ベーキングパウダーはパンやホットケーキ、お菓子などを作る際に入れられますが、これを入れることにより生地がふくらみ、ふっくらと仕上がります。
化学変化によって発生した二酸化炭素にはたらきによってパンなど中は小さな穴だらけになるのです。
炭酸水素ナトリウムと同じような変化が酸化銀でも見られます。酸化銀を加熱したときは以下のような結果が得られます。
- 加熱前は黒色だった酸化銀が加熱後は白色の物質に変わる
- 加熱後の物質を調べると金属の性質が見られる → 金属(銀)
- 発生した気体に線香の火を近づけると激しく燃える → 酸素
よって酸化銀を加熱すると、銀と酸素が得られます。
2つの物質の反応について式でまとめると次のようになります。
- 炭酸水素ナトリウム→炭酸ナトリウム+二酸化炭素+水
- 酸化銀→銀+酸素
どちらの化学反応も1つの物質が複数の新しい物質に変化しています。
このように1種類の物質が2種類以上の別の物質に分かれる化学反応を「分解」といい、今回のように加熱による分解を「熱分解」といいます。
ちなみに熱によって変化する状態変化とは違い、化学変化の場合は冷やしても元の物質には戻りません。
水の電気分解
水を分解するには、H管に電流を流すことによって行う「電気分解」をする必要があります。
図のようにして水を分解すると、2種類の気体が得られ、次のような結果になります。
- 陽極側に発生した気体に線香の火を近づけると激しく燃える→酸素
- 陰極側に発生した気体にマッチの火を近づけると音を立てて燃える → 水素
- 陰極側:陽極側の気体の体積を比べると2:1 → 水素:酸素=2:1
つまり、水を分解すると水素と酸素が得られ、その体積比は2:1であることがわかります。式にまとめるとこのようになります。
この実験では水に電流を流れやすくするため少量の水酸化ナトリウムを溶かします。純粋な水には電流が非常に流れにくいからです。
式に表わすとき、水酸化ナトリウムは書きません。
原子
物質は無限に分解できるわけではなく、いつかそれ以上分解できない粒子にいきつきます。この粒子をイギリスの科学者ドルトンは「原子」と呼びました。全ての物質は原子から成り立っています。ちなみに原子は+電気を帯びた原子核とそのまわりにある-の電気を帯びた電子から成り立っていることがわかっています。
原子には3つの性質があります。
- 化学変化によってそれ以上分割することができない。
- 原子の種類によって質量や大きさが決まっている
- 化学変化によって別の性質をもつ原子に変化したり、なくなったり、新しく生じたりしない。
現在では、およそ120種類の原子が発見されています。
この原子を記号(アルファベット)で表したものが「元素記号」です。元素記号は世界共通で使われています。書き方のルールは次の通りです。
- 一文字で表されるものは大文字で書く。
- 二文字で表されるものは、一文字目は大文字、二文字目は小文字で書く。
原子の性質を整理した表を「周期表」といいます。
約120種類ある原子ですが、中学理科では20前後しか扱いません。出てきたその都度コツコツと覚えていきましょう。
分子
物質には原子が結びついた「分子」からできているものもあります。分子を作る物質には、酸素や水素、二酸化炭素や水、そして有機物などがあります。
例えば水素ならば水素原子が2個結びついてできており、二酸化炭素なら炭素原子が1個と酸素原子が2個結びつくことによってできています。
水であれば水素原子2個と酸素原子1個なのでH2Oです。こうしてみると水の電気分解で水素:酸素が2:1なのも化学式を見れば納得できると思います。
酸素や水素、金属のように、1種類の原子からできているものを「単体」、水、二酸化炭素、塩化ナトリウムのように複数の原子からできているものを「化合物」といいます。
物質の分類
さて、「物質のすがた」の単元でも少し物質の分類がありましたが、ここでこれまでの整理をしましょう。物質は以下のように分類されます。
物質どうしの化学変化
鉄と硫黄の化合
鉄と硫黄の混合物を加熱すると以下のような結果が得られます。
つまり、鉄と硫黄の混合物を加熱すると、鉄でも硫黄でもない物質(硫化鉄)ができます。式に表わすとこうなります。
このように2種類以上の物質が結びついて新たな物質ができることを「化合」といい、化合によってできた物質を「化合物」といいます。
なお、鉄と硫黄の化合では激しい光と熱が発生します。
化学反応によって熱が発生するので、混合物の一部が赤く光り始めたら加熱をやめても発生した熱により次々と反応が進みます。
また、硫化鉄を薄い塩酸に入れると硫化水素が発生しますが、この気体は腐卵臭のする有毒なガスです。必ず窓を開けるなど換気をした状態で実験を行わなければなりません。
化学反応式
ここまで分解、化合と2種類の化学変化について学習しました。
いずれの場合も式で表すことができますが、化学式を用いてまとめることができます。
この式を「化学反応式」といいます。化学反応式のつくり方は以下の手順のとおりです。
- ①何から何ができるかをはっきりさせる。
- ②式の左側に反応前の物質、式の右側に反応後の物質を書き、 → でつなぐ。
- ③→の左右で原子の種類と数が等しいか確認する。等しくない場合は数を合わせる。
実際に化学反応式を作ってみましょう。
〈鉄と硫黄の化合〉
まず鉄と硫黄を化合させると硫化鉄ができるので、それぞれを式に入れます。
次にこれを化学式で表します。
最後に原子の種類と数を確認します。この場合左側はFeが1個、Sが1個。右側も同じ個数ずつあるのでこれで完成です。
〈水素と酸素の化合〉
まず水素と酸素を化合させると水ができます。これを式に入れます。
次にこれを化学式で表します。
原子の種類と数を確認します。
左側はHが2個、Oも2個であるのに対し、右側はHが2個、Oが1個です。原子は化学反応の前後で種類、数は変化しないので数合わせをする必要があります。
数合わせをするときは足りない方を化学式ごと増やします。この場合右側のOが足りないので水分子を増やします。
左右でOの数を合わせると、今度はHの数が違ってしまいました。同じように今度は左側の水素分子を増やします。
これで左右の原子がすべてそろいました。最後にこれを化学反応式としてまとめます。
水素分子、水分子はそれぞれ2つになったので、化学式の前に係数の2を付けます。以上より、化学反応式はこうなります。
酸素がかかわる化学変化
鉄の酸化
鉄のかたまりに火を近づけても燃えませんが、スチールウール(細い鉄の線)に火をつけると、熱や光を出して燃えます。
燃やした後のスチールウールを調べると以下のような結果が得られます。
- 金属光沢がなくなり、黒色になる。
- 手でもむと崩れる
- 燃えた後は質量が増える(酸素と化合する)。
以上のことからスチールウール(鉄)は酸素と結びついて別の物質(酸化鉄)に変化したことがわかります。式に直すとこうなります。
このように物質が酸素と化合することを「酸化」といい、酸化によってできた物質を「酸化物」といいます。
物質が光や熱を出しながら激しく酸化されることを特に「燃焼」といいます。
鉄だけでなく、銅やマグネシウムも同じように酸化(燃焼)します。
ちなみに酸化鉄にはいくつか種類があります(FeO、Fe2O3、Fe3O4)。
ひとつの化学式に特定することができないことから化学反応式で表すことは困難なのでここでは化学反応式は省略します。
金属以外の酸化
〈炭の酸化〉
炭素を燃やすと二酸化炭素が発生します。
〈水素の酸化〉
水素を燃やすと酸素と化合して水が発生します。
〈有機物の酸化〉
有機物は主に炭素と水素からできた化合物です。最も単純な構造の有機物にメタン(CH4)があります。これを酸化させると以下のようになります。
メタンに限らず、有機物を十分に酸化させると、二酸化炭素と水が発生するのです。
酸化銅の還元
酸化銅に炭素を加えて加熱すると、以下のような結果が得られます。
- 加熱後の物質は赤くなる→酸化銅でも炭素でもない物質に変化した
- 加熱後の物質をこすると光沢が見える → 金属(銅)
- 発生した気体は石灰水に入れると白く濁る → 二酸化炭素
以上のことから、酸化銅と炭素の混合物を加熱すると銅と二酸化炭素が発生することがわかります。
この化学変化を酸化銅に注目して見ると、「酸化銅から酸素が奪われた」といえます。
このように酸化物から酸素を取り除く反応を「還元」といいます。
一方で炭素に注目すると、炭素は酸化して二酸化炭素になっています。還元と酸化は必ず同時に起こるのです。
化学変化と物質の質量
質量保存の法則
化学変化の前後では、物質全体の質量は変化しません。これを「質量保存の法則」といいます。
例えば炭酸水素ナトリウムに薄い塩酸を加えると、炭酸ナトリウムと水と二酸化炭素が発生します。
二酸化炭素は気体なので、反応後は質量が減りそうに思えますが、ふたをした状態で反応させるなど、気体が逃げない状態であれば質量は変わりません。
鉄を酸化させると、化合した酸素の分だけ質量が増えましたが、これも燃やす前後の物質全てを考えれば質量保存の法則が成立します。
また、化学変化だけでなく、前単元で学習した状態変化においても質量が変化することはありません。質量保存の考え方は物質の変化すべてにおいて成り立つのです。
化合するときの物質の割合
さて、金属が燃焼すると酸化した分だけ質量が増えます。
では一定量の金属を加熱し続けた場合、酸素はいくらでも化合し続けるのでしょうか。答えはNoです。
うすく広げた銅を燃焼しては質量をはかり、燃焼しては質量をはかり…と繰り返すと、あるところで質量が頭打ちになります。
実は化学変化での物質の質量比は「マグネシウム:酸素=3:2」「銅:酸素=4:1」のように決まっているのです。
例えば6gのマグネシウムには4gの酸素が化合し10gの酸化マグネシウムができます。20gの銅であれば5gの酸素が化合し25gの酸化銅ができます。この質量比は変わることはなく、一方に過不足があった場合は多い方の物質鵜が化合しないで残ります。
化学変化と熱
化学変化が起こるときには、熱の出入りがともないます。
温度が上がる反応を「発熱反応」といい、化学変化が起こるときに周囲に熱を出しています。
身近なところだとカイロがそれにあたります。カイロは中に含まれる鉄が急激に酸化することで温度が上昇します(ちなみに錆びも鉄が酸化したものなので、錆びるときに熱が発生していますが、急激な反応ではない為感じることはありません)。
一方、温度が下がる反応を「吸熱反応」といい、化学変化が起こるときに周囲の熱を奪っています。
冷却パックが身近な例として挙げられます。これには硝酸アンモニウムと水が別々に入っており、衝撃を加えることで水のパックが破れ硝酸アンモニウムが溶けます。このときに周りの熱を奪うのです。
また、化学反応式は記事の中にも書いた通り、「何と何から何ができるのか」をはっきりさせないと作れません。数合わせは少しずつ例題を解いて慣れていきましょう。
ここでは化合するときの物質の割合についてはサラッとしか触れていませんが、計算問題としてよく出題されます。比例の計算ができれば難しくはありませんのでチャレンジしてみてください。