生命のつながり

これまでの生物分野では、植物、動物それぞれの体の構造やしくみについて学習してきました。
ここではそれらの生物がどのようにして成長し、子や孫といった子孫を残していくのかを学習します。
それではこれらについて学習していきましょう。

生命のつながり

生物の成長と生殖

細胞分裂

タマネギの根を水につけておくと、根が成長し伸びていきます。このときの根の細胞を観察すると、根の先端付近の細胞は、丸い核が見えたり、核が見えないかわりに糸状のものが見えたりします。実は、根が成長するとき、根全体が伸びているわけではなく、主に先端付近が成長しているのです。

生物が成長するには細胞の数が増えることと、細胞自体が大きくなることが必要です。
そのうち、1つの細胞が2つに分かれて2個の細胞になることを「細胞分裂」といいます。細胞分裂は、細胞内の核にある「染色体」と呼ばれる部分で行われています。
染色体には各生物の形や性質などの形質を決める「遺伝子」があります。

また、染色体の本数は生物によって異なり、ヒトの場合は46本と決まっています。
細胞分裂には「体細胞分裂」と「減数分裂」の2種類があります。

体細胞分裂

からだをつくる細胞が分裂する細胞分裂を「体細胞分裂」といいます。

細胞分裂が行われていないとき、核の中の染色体は細長い状態であります。
このときの染色体は顕微鏡で観察することはできません。細胞分裂を行っていない間を間期といいます。

分裂の準備(分裂期)に入ると、それぞれの染色体が複製され同じものが2本ずつできます。細胞分裂が開始されると、染色体は2本ずつがくっついたまま太く短くなります。
この段階になるとひも状の染色体を顕微鏡で観察することができるようになります。

その後染色体は細胞の中央付近(赤道面)に集まり、2本の染色体が避けるように分かれ、それぞれが細胞の両極へと移動します。
移動後、2つの核ができ、染色体はもとのように細長くなり見えなくなります。
そして細胞質が2つに分かれ、2つの細胞ができあがると、各細胞が大きくなり、生物が成長していくのです。

体細胞分裂では、もともとあった染色体を一度倍にし、その後半分にするため、新しくできた細胞はもとの細胞と同じ数の染色体をもっています。
生命のつながり1
生物のからだをつくるすべての細胞が体細胞分裂をするわけではなく、特定の部分で起こります。

植物の根と茎では、先端に近いところでこの細胞分裂がおこり、長く成長していきます。また、双子葉類では茎の外側に近い維管束を結ぶ部分とその周辺で細胞分裂がおこり茎を太くしていきます。

ヒトのからだでは、皮膚の表面付近の上皮組織で盛んに行われています。また骨髄では血液の細胞が細胞分裂によってつくられています。

無性生殖

生物が子をつくることを「生殖」といいます。

ゾウリムシやミドリムシ、ミカヅキモ、アメーバといった単細胞生物は、からだがダイレクトに分裂することにより新しい個体(子)を作ります。

このような受精を行わない生殖を「無性生殖」といいます。無性生殖には以下のような方法があります。

  • 分裂
  • 栄養生殖
  • 胞子生殖
  • 出芽
<分裂>

先程出てきた単細胞生物のように、体がほぼ2等分にされて増える方法です。単細胞生物以外にイソギンチャクやプラナリアでみられます。

<栄養生殖>

植物が種子によらず、からだの一部から新しい個体をつくる方法です。サツマイモなどのイモ類やタケでみられます。

<胞子生殖>

雌雄の区別がない生殖細胞(胞子)を撒いてなかまを増やす方法です。カビやキノコなどの菌類やワカメなどの藻類でみられます。

<出芽>

親のからだに生じたふくらみがやがて分離して、そこから子をつくる方法です。サンゴやヒドラでみられます。

有性生殖

無性生殖に対して、受精をすることによって子をつくる生殖を「有性生殖」といいます。多くの生物は有性生殖を行います。

有性生殖を行う生物では、生殖のための「生殖細胞」が作られます。この生殖細胞は植物では「卵細胞」と「精細胞」、動物では「卵」と「精子」と呼ばれており、この2種類の生殖細胞が結合してそれぞれの核が合体し、ひとつの細胞になることを「受精」をいいます。受精によってつくられた新たな細胞は「受精卵」と呼ばれます。

受精卵は細胞分裂をすると「胚」と呼ばれるものになり、さらに細胞を増やして個体としての組織や器官をつくっていきます。受精卵が胚になり、からだのつくりを完成させていく過程を「発生」といいます。

<被子植物の受精と発生>

おしべのやくでつくられた花粉がめしべの柱頭について受粉すると、花粉から柱頭内部へと花粉管が伸びます。
花粉管は柱頭からめしべの中をすすみ胚珠へとのびていきます。花粉管の中には精細胞があり、胚珠の中には卵細胞があります。花粉管が胚珠に到達すると精細胞と卵細胞が受精し、ここで受精卵ができるのです。

その後受精卵は細胞分裂を繰り返すことにより胚になり、胚珠全体は種子になります。

<動物の受精と発生>

外界から刺激を受け取る器官を「感覚器官」といいます。
感覚器官には刺激を受け取る特定の細胞があり、刺激を感知すると「感覚神経」に伝えます。
感覚神経は脳やせきずいに繋がっていて、刺激が電気信号として脳に伝えられるのです。

染色体の受け継がれ方

無性生殖では受精は行われず、体細胞分裂によって子がつくられます。
生命のつながり2
無性生殖における体細胞分裂では、すべての染色体が倍になり、それぞれが2つの細胞に分けられます。
このため分裂後の細胞(子)がもつ染色体は、分裂前の細胞(親)の染色体とまったく同じ染色体が同じ数だけ受け継がれることになります。

染色体の種類も本数も同じなので、当然形質も全く同じになります。
このように起源が同じで同一の遺伝子をもつ個体、または個体の集団を「クローン」といいます。

これに対し有性生殖では、生殖細胞が受精することによって子がつくられます。
有性生殖では子は両方の親から半分ずつ染色体を受け継ぐため、子の形質は各親の遺伝子によって決定されます。

また、有性生殖では生殖細胞がつくられるとき、「減数分裂」という特別な細胞分裂が行われます。

減数分裂

受精により、子をつくるための特別な細胞分裂を「減数分裂」といいます。

減数分裂によってできる生殖細胞の染色体数は、もとの半分になります。
こうすることで親の生殖細胞が受精してできる受精卵の染色体数が減数分裂前の細胞と同じになるのです。
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遺伝の規則性と遺伝子

遺伝の規則性

親の形質が子、孫へと伝わっていくことを「遺伝」といいます。
これは染色体にある遺伝子が、親の生殖細胞によって子の細胞に受け継がれることによって起こります。

ヒトでは血液型がわかりやすいかもしれません。例えば両親が共にA型であれば、子もA型になることが多いです。しかしまれにO型の子が生まれることもあります。
このように親に見られなかった形質が子で見られることもあるのです。

遺伝は単純に親の特徴がそのまま受け継がれるわけではないことを証明したのが、オーストリアの科学者、メンデルです。
メンデルはエンドウを使って遺伝の研究を行いました。

エンドウを使った実験

花粉が同じ個体のめしべについて受粉することを「自家受粉」といいます。

エンドウは自然状態で自家受粉をします。
親、子、孫…と何世代も自家受粉を繰り返しても、その形質がすべて親と同じであるとき、これらを「純系」といいます。

メンデルはエンドウの種子の色や形などの形質に着目して交配実験を行いました。
例えばエンドウの種子には丸形としわ形があり、1つの趣旨にはそのどちらかの形質が現れます。

このように対をなす形質を「対立形質」といいます。
対立形質には、このほかにも種子の色(黄色と緑色)や花弁の色(紫色と白色)、さやの形(くびれの有無)、茎の高さ(高いものと低いもの)などがあります。

メンデルの実験

メンデルは、エンドウを使い次のような実験を行い、以下の結果を得ました。

  • ①しわ形の種子をつくる純系のエンドウの花粉を、丸形の種子をつくる純系のエンドウに受粉させると、子(F1)の種子は全て丸形になった
  • ②F1を育てて自家受粉させると、孫(F2)の種子は丸形としわ形の両方の形質が現れた

ここでは種子の形のみ触れていますが、実際はもっと多くの実験を行いました。
このことから、メンデルは「エンドウの特徴を生み出す遺伝のもとは、何か粒のようなものなのかもしれない、そしてこの粒上の遺伝のもとを、全てのエンドウが2個ずつ持っているのではないだろうか」と考えました。

さらに子(F1)では見られなかったしわ形の形質については、「丸形としわ形の特徴を持つ粒は、一緒に存在するとしわ形の性質が隠れてしまうのではないだろうか」とも考えました。
そしてその性質が表に出てくる方を「優性形質」、隠れてしまう方を「劣性形質」と呼ぶことにしました(現在では、優性は「顕性」、劣性は「潜性」と呼び方が変わっています)。

さて、生物の体をつくる細胞の染色体は、同じ形や大きさのもの2本が対になって存在しています。
この2本は両親から1本ずつ受け継がれたものです。ここには形質に対する遺伝子が存在し、対になっています。

例えばエンドウの種子の形を決める遺伝子を丸形はA、しわ形はaとすると、丸形純系の遺伝子はAA、しわ形純系の遺伝子はaaということになります。

この遺伝子は減数分裂の際に分かれて別々の生殖細胞に入ります。
これを「分離の法則」といいます。

ではメンデルの実験①でできる子(F1)を、表を使って見てみましょう。
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このように丸形純系としわ形純系を掛け合わせると、遺伝子の組み合わせは全てAaとなります。
劣性形質であるしわ形は、優性形質の丸形と一緒に存在すると隠れてしまうため、この場合見られる形質は全て丸形となるわけです。

では孫(F2)の場合はどうでしょうか。
子(F1)を自家受粉させるので、生殖細胞の遺伝子はAとaになります。
先ほど同様表を使って見てみましょう。
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遺伝子の組み合わせはAAが1つ、Aaが2つ、aaが1つという結果になりました。
AAはもちろん丸形になります。Aaも先程と同じ理屈で丸形の形質をあらわします。そしてaaはしわ形の形質をあらわします。

つまり孫(F2)では、丸形:しわ形=3:1で、子(F1)では見られなかったしわ形の形質が出てくるのです。

ところで、エンドウの丸形の種子をつくる遺伝子Aと、しわ形の種子をつくる遺伝子aですが、最初から両方の遺伝子が存在していたわけではなく、一方の遺伝子に変化が起きてもう一方の遺伝子ができたと考えられています。

このような遺伝子の変化のことを「突然変異」といいます(現在「変異」と呼ばれています)。

遺伝子の本体

全ての植物、動物は細胞の中に遺伝子を持っています。

遺伝子は染色体の中に存在し、その本体はDNA(デオキシリボ核酸)という物質です。
この物質が初めて明らかになったのは1953年、メンデルが遺伝の放送区を発見してから約90年後になります。

発見者はイギリスの科学者であるワトソンとクリックです。
DNAははしごをねじったような「二重らせん構造」と呼ばれるつくりをしており、はしごの足をかける部分には「アデニン(A)」「チミン(T)」「グアニン(G)」「シトシン(C)」の4種類の「塩基」がずっと配列されています。

そしてAとT、GとCは必ず向き合うようになっています。
つまりはしごの片方の塩基配列が「AAGCTAC」だとしたら、もう片方は必ず「TTCGATG」となるのです。

二重らせんのはしごを真ん中で切断しても、この組み合わせをもとに残りの部分を合成すれば、元と同じ塩基配列のDNAが2つできあがります。
これをDNAの自己複製といいます。細胞が分裂しても同じ遺伝子を持った細胞が2つできるのはこのためです。

DNAはもちろん大変小さいものです。到底肉眼では見えないものですが、食塩、台所用洗剤、エタノールなどを使うことによって、ブロッコリーからDNAを抽出することが可能です。

細胞分裂は「染色体が見える→真ん中に並ぶ→両端に分かれる→2つの細胞になる」というおおまかな順序が頭に入っていれば並び替え問題がでてきても大丈夫なはずです。

大まかに言ってしまうと、体細胞分裂は「2倍にしてから半分」、減数分裂は「半分にしてから2倍」です。
結果的にはどちらでできる子も親と同じ本数の染色体を受け継ぎます。減数分裂は苦手意識を持つ人が多いですが、基本を押さえればそこまで難しくありませんのでぜひ学習してみましょう。
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