現代社会の課題 | 0から始める高校地理まとめ
今日の世界で発生している問題にはどのようなものがあるのでしょうか。本単元では、それぞれの問題点をその背景に焦点を当てることで、学習の理解を深めていきます。
はじめに
本単元は、現代社会で抱えている課題、ひいては地球規模でどのような課題を抱えているのかについて学習していきます。課題は大きく分けて2つありますが、1点目は環境問題に代表される自然に関するもの、2点目は民族紛争や地域格差などに代表される社会問題に関するものになります。
それぞれ、非常に大きな問題となっており、メディアでも取り上げられることの多い話題ですので、テストや大学受験などでは頻出の問題となります。ですので、世界でどのような問題が起きているのか、そしてその原因は何か、さらにはその問題を解決するためにどのような取り組みが行われているかに注目をして学習してくことが大切になります。
環境問題
世界では様々な環境問題が発生しています。先進国や発展途上国の両方で環境問題が見られますが、発展途上国で発生しているものについては、背景に先進国が関わっているものも多いことを覚えておきましょう。
熱帯雨林の破壊
熱帯雨林は、赤道周辺に分布する熱帯(ケッペンの気候区分:A)に大きく広がっています。熱帯雨林は、多様な生物が生息する豊かな生態系が広がっていたり、二酸化炭素を吸収し酸素を放出したりしています。その熱帯林が破壊されると、生態系が破壊されたり、大気システムに異変が起きたりしますので、大きな環境問題と言えます。
よく取り上げられるのは、アマゾンの熱帯雨林です。アマゾンを代表とした中南米は、世界の中でも特に熱帯雨林の減少が著しい地域ですので、頻出の事項になります。
アマゾンの熱帯雨林が減少している理由には、アマゾンの開発が挙げられます。その背景には、人口が爆発的に増加していることが挙げられ、食糧問題を解決するために、農地や焼畑が拡大していることが原因となっています。さらには、商業利用のために、熱帯雨林が伐採されたり、海外への輸出を目的とした牛肉を生産するために農場を開拓したりなど、先進国の需要があることを理解しなければいけません。
また、タイで発生しているマングローブ林の乱伐も非常に問題視されていますが、これは日本向けの輸出を目的としたエビの養殖場を開拓していることが原因となっています。日本向けへの輸出量が増加している点や、養殖場の生産量が落ちることによる新規開拓も重なり、現在でもマングローブ林の破壊が進行しています。
ここまでブラジルとタイの事例を取り上げてきましたが、東南アジアや中南米の国々では、先述の通り、先進国向けの輸出を目的とした商品の生産が原因で、熱帯雨林の破壊が進行していますので、この背景は必ず理解しておきましょう。
酸性雨
石炭や石油といった化石燃料を消費したり、自動車から排出される窒素酸化物(NOx)や硫黄酸化物(SOx)が原因となって、酸性度数の高い雨のことを酸性雨と言います。
エネルギー革命以降、急激な石油利用の増加や、自動車の大衆化が進んだことによって、新たに浮上してきた環境問題で、森林が枯れたり、農作物への被害が発生したり、湖沼の酸性化による魚類の死滅したりするなど、様々な被害が出ています。
酸性雨の特徴は、偏西風や季節風の影響を受けて世界各地に拡散されてしまうというもので、工業が発展していて偏西風の影響を大きく受ける大陸東岸では被害が拡大しやすいと言われています。頻出で取り上げられるのが、ドイツのシュヴァルツヴァルト(ドイツ語で黒い森を意味)や、中国、アメリカ東部になります。
オゾン層破壊
オゾン層は太陽の紫外線を吸収し、地球の生態系を保持する働きがありますが、人工的に作られたフロンガスの影響で、オゾン層が破壊されています。オゾン層が破壊されると、有害な紫外線が増加するため、皮膚がんや白内障に罹患する人が増加、さらには気温上昇などが発生すると言われています。南極付近では冬から春にかけてオゾンホールが見られます。
この問題を受け、1989年にヘルシンキ宣言が採択され、2000年までにフロンガスの全廃が決定されましたが、現時点でもすべてを回収できていないという課題があります。
砂漠化
気候変動や家畜の過放牧、人口増加、灌漑が原因で、世界では局地的に砂漠化が進行しています。近年、特に原因として大きな割合を占めているのが、家畜の過放牧や、人口増加、灌漑になります。
人口が増加すると、家畜も増加する傾向があり、家畜が貴重な水や草を飲み食べ尽くすことによって、急激に砂漠化が進行します。その代表的な事例がサハラ砂漠のサヘルと呼ばれる地域です。サヘルは年間を通して、中緯度高圧帯に覆われる地域ですので、元々降水量が少なかったですが、急激な人口と家畜の増加によって、さらに急激な砂漠化が発生しました。
また、灌漑の事例としては、ナイル川やアラル海、マリー川が挙げられます。これらの地域では、農作物の栽培拡大を目的に、河川から水を引っ張ってきました。しかし、急激な灌漑によって、土壌の塩類が地表に集積し、結果、土壌が塩類化してしまい、砂漠化が発生が進行しました。
また、アラル海はかつて世界第4位の面積を誇っていた湖でしたが、綿花栽培を目的にアムダリア川とシルダリア川からの灌漑を急激に拡大させた結果、アラル海に流れ込む水量が大幅に減少し、アラル海の面積が急激に縮小してしまいました。また、その影響として、アラル海で営まれていた産業(代表例は漁業)は衰退していくことになります。
地球温暖化
地球温暖化とは、地球上の大気や海水の温度が上昇する現象のことです。IPCC(気候変動に関する政府間パネル)によると、21世紀末には現在よりも2~3℃気温が上昇すると言われています。
地球温暖化は、二酸化炭素やメタンガス、フロンガスなどに代表される温室効果ガスが原因と言われており、氷河が融けることによる海水面上昇や、それに伴い、陸地が海水面に沈下、さらには生態系の破壊などが発生すると予見されています。
二酸化炭素の排出量については、アメリカや中国、インド、日本など、先進国で多くなっており、発展途上国との差は大きくなっています。さらには、温室効果ガスの排出目標については、各国で大きな差が見られ、先進国は「世界各国で数値目標を持つべき」という考えの中、発展途上国では「先進国の排出量が圧倒的に多いことから、先進国が優先しては排出を削減すべき。発展途上国は発展の権利がある」など、主張には大きな食い違いが見られます。
なお、地球温暖化の進行を食い止めるため、1992年に地球サミットが開催され、その後、1997年には京都議定書が採択され、各国の行動目標が定められました。しかし、その後アメリカが離脱するなど、問題は山積みとなっており、世界各国で持続可能な開発に取り組むことが求められています。
領土問題
各地で発生している領土問題はどのような背景で起きているのかを押さえていくことが大切になりますが、その背景には民族問題や資源を巡る争いがあることを理解しておきましょう。
①カシミール地方
カシミール地方はインド・中国・パキスタンの国境付近に位置しています。対立の背景には、ヒンドゥー教(インド)とイスラム教(パキスタン)の宗教対立が大きいとされていますが、中国もカシミール地方の帰属権を主張しています。なお、日本の出版社が発売する世界地図帳において、カシミール地方の国境線は点線表示となっています。
②チベット
チベットではチベット族が住んでおり、チベット宗教という独自の民族宗教を信仰しています。この点が中国と大きく異なる点から、中国からの分離・独立運動が発生していますが、現在においても中国政府による弾圧が続けられています。
③チェチェン
チェチェンはロシアに管轄されている地域ですが、キリスト教の東方正教を信仰する人が多いロシアとは異なり、イスラム教徒が多く住んでいる地域で、民族的な観点が異なっているため、ロシアからの分離・独立運動が発生しています。
しかし、チェチェンに豊富な石油や天然ガスに代表される資源が眠っているため、ロシア政府が独立を認めず、チェチェンへの弾圧が続けられています。
④バスク地方
スペイン北部とフランス南部にまたがるバスク地方には、両国にも属さない文化や言語(バスク語)を持つバスク人が住んでおり、一国として独立する動きが見られ、紛争も発生しましたが、現在は沈静化しています。
⑤ケベック
ケベック州はカナダ東部に位置する州で、古くはフランスの勢力下にあった地域のため、カナダの独立以降もフランス文化が色濃く残っています。住民の多くはフランス系住民であり、フランス語が広く話されています。イギリス文化の強いカナダから独立しようという動きがあり、1995年にはケベック州の独立を問う住民投票が行われましたが、僅差で否決となりました。
⑥北方領土
北方領土(択捉島・国後島・色丹島・歯舞群島)は日本固有の領土ですが、第二次世界大戦後、ロシアによる占領が続いており、日本がロシアに返還を要求していますが、事態は改善していません。
地域格差の問題
今日の世界において、先進国と発展途上国の間には大きな経済格差が見られます。これは、工業化が進む先進国が安定的に利益を生み出し続けることが出来るのに対し、発展途上国は、特定物の生産(主に農産物や天然資源)に依存するモノカルチャー経済になっており、市場や景気の影響に大きく左右される不安定な状態であることが原因となっています。
この地域間格差で生じる問題を南北問題と言います。これは、北半球に経済が発展した先進国が集中しており、南半球には経済的に後進国に分類される国々が集中していることから名づけられています。
南北問題を解決するために、特定製品の値上げを実現したり、安定供給出来るような援助をしたり、さらには開発援助を実施するなど、様々な取り組みが実践されていますが、根本的な解決には至っていません。
また、発展途上国の多い南半球の国々の中でも、経済格差が見られ、これを南南問題と言います。これは、発展途上国の間でも、石油や石炭、天然ガスといった豊富な資源に恵まれている国とそうでない国に分けることができ、後者は世界の中でも最貧国に分類され、その大半はアフリカ諸国となっています。
なお、最貧国では、世界の中におよそ80か国に及び、1日100円以下で生活している人々が10億人以上いると言われています。社会インフラが普及しておらず、教育を受けられないことによって識字率が20%に満たない国々がある点や、生活環境が劣悪で衛生問題が発生する国々では餓死者が多い点、子どもが労働者となり家計を支えている点など、様々な面で、先進国とは異なる実態が見られます。
南南問題を解決するために、NGO(非営利組織)やODA(政府開発援助)の必要性が挙げられます。
難民問題
UNHCR(国連難民高等弁務官事務所)の統計によると、2018年時点で7000万人を超える難民がいると推計されています。主に紛争によって難民が発生していますが、紛争の発生している場所や難民の流入先には共通点があります。
紛争の発生場所として多い国々は、中東やアフリカに集中しており、その移動先の大半がヨーロッパ(特にドイツ)、アメリカとなっています。
流入先について、基本的には、住んでいる国から近くて安全な国に流れやすいとされています。そのため、中東やアフリカはヨーロッパへ流入しやすくなりますし、メキシコからアメリカへの難民流入も地理的な要因が大きくなっています。
なお、地域別に発生する難民数は、紛争の発生した地域によって大きく変わってきますので、大規模な紛争(戦争)がどのような地域でいつ発生したかを押さえておくと良いかもしれません。
さいごに
現代社会で発生している問題は、私たちの生活に関わってくるものが多いため、テストや大学受験では頻出のテーマとなっています。選択式の問題もそうですが、自身の考えを記述する論述問題では、特に狙われやすいといっても過言ではありません。
領土問題についても、代表的な事例をいくつか記載しましたが、その他にも様々な場所で見られる問題ですので、基本的な内容は理解しておきたいところです。
なお、本単元の学習を円滑に進めていくためにオススメなのが、教科書や資料集に掲載されている写真や図表になります。具体的な写真や実態を把握出来る数値を用いた図表は、内容を理解するうえで必須になりますし、自身の考えを整理するツールとしては最適です。