有機化合物の構造決定 | 0から始める高校化学まとめ
数種類の有機化合物からなる混合物から、目的の化合物を分離する、またはその化合物が何なのかを明らかにするステップは、高校化学の有機化合物の単元の中でも難易度が高いところです。しかし、中身はそれほど難解ではありません。先入観を持たずに学習しましょう
構造決定とは何か?
有機化合物の構造決定は産業の分野では非常に重要なステップです。地球上には非常に多くの有機化合物が存在し、自分が知りたい化合物がどのような構造をしているのを知ることは、様々なケースで重要になります。
この記事では、どのようにして有機化合物の構造が決定されるのかを解説します。有機化合物は天然において単体で存在している事はそれほど多くなく、いくつもの異なる有機化合物の混合体として存在します(原油など)。
こういった場合、混合物からターゲットの物質を分離、そして精製して分析しやすい形にします。精製によって物質の純度を上げるわけですが、純度が高ければ高いほど分析結果の精度は上がります。
このステップは、連問として有機化学の分野では出題されることが多く、比較的正答率が低い問題でもあります。ここをマスターすればかなり差がつけられる分野です。
問題としては、「有機化合物の分離について」と「有機化合物の反応から構造を推測する」という二つのタイプに分けられます。分離と構造推測が合体した問題は、難問として出題されることがほとんどです。
この記事では、有機化合物の分離方法をまず解説し、その後に構造決定に必要な反応についての解説をしていきます。
有機化合物の分離と精製
有機化合物の分離と精製の方法は、今でも新しい技術が開発されています。高校化学の分野では、古典的、かつ基本的な方法の原理と応用を学びます。
分離と精製の方法
高校化学で学ぶ方法としては、ろ過、蒸溜・分留、再結晶、抽出、クロマトグラフィーがあります。ここに挙げた方法は、有機化合物だけでなく、無機化合物にも使われる方法です。
ろ過は液体と、その液体に溶けない固体の物質をろ紙などを用いて分離する操作です。
再結晶は、溶媒に溶ける物質の量が温度によって変わることを利用する方法です。一般的に溶媒の温度が高いほど物質が溶ける量は多くなります。その状態から溶媒の温度を下げていくと、溶けていた物質が結晶として析出する場合があります。
例えば固体に複数の物質が含まれていた場合、その物質を高温の液体に飽和状態で溶かし、温度を下げていくと、再結晶する物質だけが結晶を作ります。こうして固体から物質を分離します。
蒸溜・分留は物質による沸点の違いを利用する方法です。数種類の物質を含む液体を加熱し、生じた蒸気を冷却し液体に戻します。こうして蒸発しやすい物質を分類するのが蒸溜です。この方法で成分ごとに分離していく方法を分留と呼びます。代表的なものとして、原油から軽油、重油などを分離するステップが挙げられます。
抽出は、数種類の物質で構成されているものの中のある物質が、特定の溶媒に溶けることを利用する方法です。わかりやすい例は、粉砕したコーヒー豆に熱湯、水を掛けることによって、コーヒーの味の成分などを溶かし出すことが挙げられます。
液体に溶けた物質がろ紙などの中を移動するとき、物質ごとの吸着力の違いによってろ紙の中の移動距離に違いが生じます。これを利用して混合物を分離する方法がクロマトグラフィーです。ろ紙を使うペーパークロマトグラフィー、シリカゲルを使った薄層クロマトグラフィー、カラムを使ったカラムクロマトグラフィーがよく使われます。
芳香族化合物の分離
ここでは有機化合物独特の分離方法について解説します。根本の原理としては、水とエーテルを混合すると、水の層(水層)、エーテルの層(エーテル層)に分かれます。どちらの層に化合物が溶け込んでいるか、その溶け込んでいる溶液に酸性、塩基性どちらの水溶液を加えるのか、が重要なポイントになります。
有機化合物の中でメジャーとも言える芳香族化合物の分離方法が高校化学ではメインです。ここからは複数の芳香族化合物が混ざっている液体から化合物を分離していく方法を解説します。
芳香族化合物のうち、水に溶けにくく酸性、塩基性を示す化合物は塩を作ると水に溶けやすくなります。これを利用すると、エーテル溶液に含まれている芳香族化合物が分離できます。エーテルに何らかの水溶液を加えると、水溶液に含まれている水とエーテルが分離し、液体はエーテル層と水層に分かれます。この性質は分離によく利用されます。
アニリンの場合、弱塩基性を示します。弱塩基性のアニリンをエーテルに溶かし、そこに塩酸のような酸性の水溶液を加えると、アニリンは塩を作ります。塩となったアニリンは水層に溶け込むので、水層の水を回収すれば塩として水に溶けているアニリンを回収できます。
カルボン酸は弱酸性を示します。よって、カルボン酸より弱い酸の塩を溶かした水溶液を加えます。その結果、カルボン酸は水層に溶け込むので分離が可能になります。
フェノールはカルボン酸と同じ弱酸性で、塩基の水溶液によって塩を作り、水層に溶け込みます。
ただし、トルエンのように中性を示す物質は酸性、塩基性水溶液どちらを加えても塩を作らないのでエーテル層に残ります。
次に具体的な有機化合物の混合物を例に挙げて、混合物の分離ステップを解説します。エーテル溶液に、フェノール、安息香酸、アニリン、トルエンが溶けている液体から物質を分離していきます。
まずはこの混合溶液に塩酸を加えます。水層とエーテル層に分かれた液体には、水層にアニリン、エーテル層にフェノール、安息香酸、フェノールが溶けています。水層に溶け込んでいるアニリンは、水酸化ナトリウム(NaOH)水溶液とエーテルを加えて振ることによってエーテルに移行し、エーテルに溶け込んだアニリンが分離できます。
フェノール、安息香酸、トルエンは最初のステップで分けられたエーテル層に溶け込んでいます。このエーテル層に炭酸水素ナトリウム(NaHCO3)の水溶液を加えて振ります。炭酸水素ナトリウム水溶液には水が含まれています。そのため、また水層とエーテル層に分かれます。
この時、水層には安息香酸、エーテル層にはトルエンとフェノールが溶け込んでいます。この水層に塩酸とエーテルを加えると、安息香酸はエーテル層に移行し、エーテルに溶け込んだ安息香酸が分離できます。
そしてトルエンとフェノールが溶け込んでいるエーテル層に水酸化ナトリウム(NaOH)水溶液を加えます。よく振ると、エーテル層と、水酸化ナトリウム水溶液に含まれていた水の層に分かれます。
この時、水層にはフェノールが溶け込み、エーテル層にはトルエンが溶け込んでいます。この段階で、トルエンのみがエーテル層に溶け込んでいるのでトルエンの分離は完了、あとは水層のフェノールをエーテルに溶かすのみです。
フェノールが溶け込んでいる水層には、二酸化炭素(CO2)の吹き込み、さらにエーテルを加えて振ります。これによってフェノールはエーテル層に移行し、エーテル溶液に溶け込んだフェノールの分離が完了します。
以上のステップによって、フェノール、安息香酸、アニリン、トルエンをそれぞれ分離することが完了しました。
このような問題を解くとき、もしトルエンが混合物に含まれていた場合、最後までエーテル層に残るのはトルエンです。トルエンは中性なので、酸性、塩基性のどちらの水溶液にも反応しません。これを知っていれば、最終のエーテル層に何が溶け込んでいるか、から遡って問題を解くことができ便利です。
有機化合物の構造決定
試料から純粋な物質を分離する。
↓
元素分析によって組成式を決定する。
↓
分子量を測定して分子式を決定する。
↓
化学的性質を調べ、構造式を決定する。
ここからは、それぞれのステップを詳しく見ていきます。
組成式の決定
有機化合物の主な成分は炭素、水素、酸素です。この3つの元素のみから構成されている化合物の場合、まず化合物の質量を正確に測定し、完全燃焼させて二酸化炭素と水を生成させます。このステップを開始点として組成式を決定します。
生成した二酸化炭素はソーダ石灰に、水は塩化カルシウム吸収させます。これらを吸収すると、ソーダ石灰と塩化カルシウムの質量が増加しています。この時に注意する事は、まずは塩化カルシウムで水を吸収した後に、ソーダ石灰に二酸化炭素を吸収させます。ソーダ石灰は、水と二酸化炭素両方を吸収してしまうためです。
これによって試料に含まれる炭素、水素、酸素の質量を求めます。この質量をモル質量を使って物質量(mol、モル)の炭素:水素:酸素の比を求めます。炭素、水素、酸素から構成されている化合物ですと、CxHyOz (x、y、zは整数)ですので、物質量の比、つまり原子数の比で組成式を完成させます。
分子式の決定
原子数の比で組成式を決定しました。しかし組成式の比を使ってC2H3O2とわかったとしても、化合物はC2H3O2の可能性、C4H6O4の可能性もあります。
つまりn × 組成式=分子式(nは整数)となります。分子式は組成式の整数倍です。この決定ステップは、
1. まず各成分元素の質量を求める。
2. 原子数の比を求めて、最も簡単な整数比にする。
3. 分子量から分子式を決定する。
構造式の決定
分子式が決定すると、構造式の決定をすることができます。ここで重要なのは、分子内の結合がどのようになっているか、並び方はどうなのかです。
最も簡単な有機化合物は、官能基の推定によって構造式が決定できます。例えば、分子式がC4H8O2で、炭酸より強い酸性を示したとします。そうなると、カルボキシ基、―COOHを含んでいることになります。これを示性式に直すと、C3H<sub7COOHとなり、飽和脂肪酸である事がわかります。</sub7
また、分解生成物によっても予想することができます。この場合、基本構造をなるべき壊さない加水分解などで化合物を分解して、得られた分解生成物から官能基を推測します。
先ほどと同じC4H8O2は、金属ナトリウムと反応せず、中性を示します。つまり還元性を持ちません。
これを加水分解すると、エタノール、C2H5OHと、酢酸CH3COOHが生成します。これによって、示性式がC3H<sub7COOHとなります。</sub7
このような反応からの推測で、高校化学の範囲で重要なものを以下に挙げます。
臭素(Br2)水溶液の赤褐色を脱色する。これは化合物に炭素の二重結合、または三重結合が存在している事を示します。
過マンガン酸カリウム(KMnO4)の赤紫色が脱色されると、化合物に炭素の二重結合、または三重結合を含んでいます。また、第三級以外のアルコール、アルデヒドである事が考えられます。
ナトリウム(Na)と反応して水素を発生する。この場合は、アルコール、フェノール、またはカルボン酸のいずれかです。
水酸化ナトリウム(NaOH)水溶液によく溶ける場合は化合物は酸性の化合物であり、カルボン酸、フェノール、スルホン酸のいずれかです。
炭酸水素ナトリウム(NaHCO3)水溶液によく溶ける。この場合は炭酸より強い酸です。これに該当するのは、カルボン酸、スルホン酸、アミン(塩基性)です。このうち、アミン(塩基性)は、酸性水溶液によく溶けます。
フェーリング液の還元、銀鏡反応を起こすのは、アルデヒドと糖類です。
ヨードホルム反応を起こすと、CH3CH(OH)R型のアルコール、またはCH3CORのカルボニル化合物です。
塩化鉄(III)、FeCl3を加えたときに紫色になった場合、化合物はフェノールに分類される化合物です。
紫色を呈する反応では、塩化鉄(III)を加える以外に、さらし粉を加えた場合でも紫色になる反応があります。この反応を示した場合、化合物はアニリンです。
還元反応によって第二級アルコールができる場合は、化合物はケトンです。
そして加水分解して生成する物質は非常に重要ですので必ず覚えておきましょう。アルコールとカルボン酸が生成する場合は、エステル(―COO―)、カルボン酸だけが生成する場合は酸無水物、カルボン酸とアミンが同時に生成する場合は、アミド(―NH−CO−)です。
これらの情報を組み合わせることによって、有機化合物が何なのかを特定します。問題を解くときには、最初はいちいち教科書、参考書でこれらの情報と照らし合わせながら解き、慣れてきたら自分の覚えている内容で解いてみましょう。
この単元は、学習を始めてしまえば思ったよりも学習が進みます。あまり苦手意識を持たず、難しいのではないかという先入観を持たずに学習しましょう。
ポイントは、分離、構造決定の問題で、いきなり全てを理解しようとしないということです。一つ一つのステップを丁寧に学習していきましょう。