地方自治 | 10分でわかる 中学公民まとめ
私たちが暮らす街は地方自治体と呼ばれる行政組織によって管理されていますが、そもそも地方自治体はどういったものであるのか、どのような仕事をしているのか、直面する課題などに焦点を当て、地方自治の概要を理解していきましょう。
はじめに
イギリスの政治学者であるジェームズ・ブライスは「地方自治は民主主義の学校である」という言葉を残していますが、民主主義において地方自治がその好例として取り上げられる理由や背景を理解することが本単元の最終的な目標です。
地方自治は文字通り、国家からは離れ地方が行う政治のことを指しますが、その権限は広いため、それがどういった役割を持っているのか、そしてその地域で暮らす住民がどのような権利を持っているのかを理解しましょう。
国家と地方自治ではどのような違いがあるのかを比較しながら学習することで、冒頭に記載したブライスの言葉を本質的に掴むことが出来ます。
地方自治の基礎
地方自治とは?
先述の通り、地方自治は国家から独立して「地方が自身で治める」という意味合いがあります。
国家からは干渉を受けずに地方の政治が行われるのです。
さて、地方で政治をするのは一体どのような組織でしょうか。
それは地方自治体(地方公共団体:以降、地方自治体と表記)です。
まとめると、地方自治は国家から一定の権限を付与された地方自治体がその地域の政治を行うことを指します。
ニュースや新聞などではよく目にする地方自治体ですが、具体的な事例を挙げると、東京都や大阪府、神奈川県といった都道府県から、札幌市や仙台市、箱根町といった市町村まで、その数は非常に多いことが特徴です。
私たちが暮らしている街も地方自治体によって管理されているのです。
地方自治の歴史
地方自治という概念が広まったのは明治時代に入ってからで、このきっかけになったのが1871年(明治4年)に制定された廃藩置県でした。
これは当時の日本政府が江戸時代の藩制度を廃止して新たに府県を設置し、地方の統一を進める為に、政府(中央)から現在の知事に当たる役職者を地方へ派遣するという内容です。
しかし、時代が進み、1945年に第二次世界大戦が終結すると、日本国憲法の制定や1947年(昭和22年)に公布された地方自治法の影響によって、地方自治は国家から独立して行われるべきものとして、地方自治体が独自に地方を治める形に移行しました。
それでも当時はまだまだ国家の下請けとしての役割が強かったため、それを排除し、国家と地方が対等な立場になるように、1999年(平成11年)に地方分権一括法が制定され、現在に至ります。
住民自治と団体自治
地方自治における基本的な概念として、住民自治と団体自治というものがあります。
住民自治とは、その地域で暮らす住民の意思に基づいて地方自治が行われるべきであるという考え方です。
団体自治とは、国家から独立して、地方自治体がその地域の政治を行うべきであるという考え方です。
いずれにしても、当たり前のような考え方に見えますが、地方自治の概念が普及し始めた明治時代には浸透していなかった概念でした。
地方自治の仕組み
地方自治体の仕事
地方自治体の仕事は非常に幅広いですが、全ての仕事に共通することは、その地域で生活する住民が快適に暮らせるようにするというものです。
そのため、いずれの仕事も私たちの生活に大きく関わってくるものばかりです。
例えば、私たちが普段何気なく歩いている道路や住民が利用する公園の整備が該当します。その他は子育てがしやすいような制度を設けたり、大きな商業施設を誘致したりするのも仕事の一例です。
このように私たちがこのような仕事を意識する機会がないのも、地方自治体が暮らしやすい街づくりをしてくれているおかげと言えるでしょう。
地方議会と首長
国の政治について話し合う場が国会であれば、地方の政治について話し合う場は地方議会です。
(ただし、国会は衆議院と参議院の二院制ですが、地方議会は一院制です)
地方議会の仕事は、予算を決めて決算を承認したり、住民からの問い合わせに対応したり、さらには条例を制定したりします。
条例とはいわば「その地域でしか効力を発揮しない法律」のようなものです。
条例の制定は日本国憲法第94条において、必要な範囲内で認められている地方自治体の権利になります。
具体的な事例として、京都市では景観条例が制定されていますが、これは京都市が育んできた伝統的な景観を維持するために設けられたものです。
以上が地方議会の代表的な仕事ですが、ここに属する議員はどのように選ばれるのでしょうか。
それは地方自治体が日程を揃えて行う統一地方選挙です。
ここではその地域の住民が直接候補者に票を投じ、選ばれた候補者がその地域の代表者として地方議会に参加します。
議員の任期は4年ですが、後述の住民による解職請求(リコール)や地方議会の解散によっては任期を満了できない場合もあります。
また、地方自治体には首長と呼ばれる人がいます。
首長はいわば地方自治体のトップを指し、都道府県であれば知事、市であれば市長です。
首長の仕事は議会の招集・議案の提出や条例の執行、地方自治体の監督などが挙げられます。
首長とは別に行政委員会というものもあります。これは首長からは独立している教育委員会や選挙管理委員会などが該当します。
住民が持つ権利
「地方自治は民主主義の学校」と言われる大きな要因の一つに、住民に直接請求権が認められている点が挙げられます。
直接請求権とは、住民が地方自治体に対して、一定数の署名や同意があれば、その件について直接問い合わせることが出来るというものです。
それでは、住民が直接的に請求出来る権利にはどういったものがあるのでしょうか。下記がその事例です。
①条例の制定や改正・廃止に関する請求
総有権者数の50分の1以上の署名を集めたうえで、首長に請求します。その後、議会が本項目を議決を行います。
②監査に関する請求
主に事務に関する監査請求で、総有権者数の50分の1以上で監査委員に請求出来ます。その後、監査委員による監査が実施されます。
③解職請求(リコール)
有権者数の3分の1以上の署名を集めたうえで、選挙管理委員会に請求します。ただし、解職請求をしたからといって、対象となる首長や議員は辞職するかというとそういうわけではなく、その後住民による投票が行われます。
④地方議会の解散請求
解職請求(リコール)と同様の手続きを踏みます。
直接請求権で問われやすい項目は、どの請求にどれくらいの署名(もしくは要求)が必要になるのかという点です。
非常に覚えづらい項目ではありますが、有権者数の3分の1という請求は、解職請求(リコール)や議会の解散など、首長や議員にとって非常に大きな問題となる事案と言えるでしょう。そのため、非常に多くの請求がなければ、直接請求の権利が認められないということです。
一方で、条例や監査に関する請求は、いわば地方自治体の事務的内容への問い合わせのように捉えられます。前者のように対象者が失職する可能性がある事案よりも軽い内容であると考えれば、50分の1という数字も円滑に理解出来るのではないでしょうか。
地方財政について
地方自治体を運営していくうえでお金のやりくりは欠かせませんが、これを地方財政といいます。
財政において、地方自治体に入ってくるお金(収入)を歳入、出ていくお金(支出)を歳出と呼びます。
よって、地方自治体は歳入と歳出のバランスを取りながら、その地域の運営をしているのです。
では、歳入と歳出がそれぞれ具体的にどういった項目が挙げられるのでしょうか。
歳入の代表例は、私たちが納める地方税や国が地方自治体の財源バランスを調整するために支給される地方交付税、国が用途を指定したうえで支給される国庫支出金(先述の地方交付税は用途が指定されていない)、さらには地方債と呼ばれる借入などが挙げられます。
歳出の代表例は、議員に支払う報酬や議会の運営費に使用される議会費や、私たちの生活が快適になるように福祉面に使用される民生費、公共事業に使用される土木費などが挙げられます。
地方自治の課題や対策
市町村合併と人口減少
日本は2004年をピークに人口減少のフェーズに突入しました。特に人口減少が著しいのが都市部から離れた地方になります。
そのため、地方自治体の財源をカバーしたり、地域の活性化を目指したりする目的で多くの市町村(地方自治体)合併が行われています。
なお、2014年(平成26年)4月時点での市町村数は約1700になりますが、1945年(昭和20年)の第二次世界大戦終結後には約10000、1888年(明治21年)には約70000という膨大な数が存在していたため、平成の市町村合併によってその数は大きく減少しました。
オンブズマン制度
地方自治体には、行政を監視し政策に対して苦言を呈するなどして、行政の効率化や住民の権利を守るといった目的でオンブズマン(オンブズパーソン)制度が見られます。
オンブズマンには「代理人」という意味があり、行政から離れた形でそれを監視する地方自治の代理人としての役割を持ち、市民オンブズマンも全国の地方自治体に存在しています。
住民投票の広がり
地方自治体が地方自治を行う上で、住民の意見を聞くために住民投票が行われる場合があります。
この住民投票は日本国憲法で保障されているもので、私たちが政治に参画出来るような民主政治の基盤として確立されているものです。
例えば、新潟県旧巻町(現在の新潟市)で1996年に行われた住民投票では、東北電力による原子力発電所建設の是非が問われました。
結果、反対票が賛成票を上回り、旧巻町の原子力発電所の建設計画は中止になったのです。
このように、住民の意見が直接反映されるという観点では、地方自治が民主主義の学校といわれる理由もうなずけます。
町おこし・村おこし
日本の人口減少と東京への一極集中が続いていることから、(特に)地方に分布する地方自治体では急激な人口減少がみられ、これは今後も続いていくと言われています。
そういった中で、各自治体が行っているものが町おこし(村おこし)と呼ばれるものです。
これは「10分でわかる 中学公民まとめ」シリーズの中にある「家族と地域社会」(https://novita-study.com/5968/)の中でも取り上げたものになりますが、地方自治体にとっても大きな取り組みであると言えます。
先述の単元でも触れていますが、町おこし(村おこし)の代表例は、その地域の特徴を模したキャラクターであるゆるキャラの活用や、B級グルメと呼ばれる地元名産品のアピールで、いずれもご当地名物となっているものばかりです。
例えばゆるキャラであれば、そのキャラクターグッズの販売によって大きな経済効果をもたらします。代表的な事例は熊本県のくまモンで、関連グッズなどの累計販売額は6,600億円(日本経済新聞:2019年3月4日付)を超えるなど、熊本県に大きな利益をもたらしました。もちろん、熊本県は地方自治体の一つになります。
B級グルメであれば、2006年から継続的に行われているB-1グランプリという全国のご当地グルメでNo.1を決めるイベントが有名です。こちらでグランプリに輝いたご当地グルメは非常に大きな注目を集めるため、ゆるキャラと同様に大きな経済効果を見込めるでしょう。
その他にも、その地方自治体が独自に行うイベントは全国から注目を集め、大きな経済効果を生み出している事例が見られます。
ここまで、町おこし(村おこし)で成功している事例を取り上げましたが、これはほんの一部でしかありません。大半のイベントは中々上手くいかずに厳しい現実にさらされているのが実情で、地方自治体にとっては地域活性化において大きな課題となっているのです。
さいごに
地方自治の関するテーマは、他単元と比べてその分野からまんべんなく出題される傾向があります。
ですので、特定のテーマを極めるだけでは足りませんので、学習を始める際には「広く浅く」地方自治で取り扱った内容を見ていくことが重要です。
冒頭で記載した通り、地方自治は民主主義の学校と呼ばれます。それは、住民が様々な権利を行使しながら、地方自治に関わることが出来るという理由が大きいからです。
そのため、具体的に住民がどのように関わることが出来るのか、そして住民が持つ権利はどのような条件下で行使されるのかといった点に注目しましょう。
また、他の公民単元と同様に、現在進行形で様々な問題に直面しているため、時事問題の一問として出題される場合もあります。
常日頃から自身のアンテナを張っておきながら、地方自治に関する理解を深めていくことが求められます。