有機化学の基礎 ~命名法~ | 0から始める高校化学まとめ

有機化合物は、構造と名前を一致させるのが大変です。しかし、名前がどうやって付けられているかのかという法則を覚えてしまえば、それほどの苦労なく構造と名前が一致するようになります。この記事ではそのコツについて解説します。

有機化学の基礎~命名法~_0から始める高校化学まとめ

命名法とは

有機化合物は、IUPAC命名法(アイユーパックめいめいほう)で名前がつけられます。IUPACとは、International Union of Pure and Applied Chemistry、国際純正・応用化学連合という組織の略称です。大まかにどういう事が決められているかというと、

・構造の明らかになった化合物に対して、より簡単、かつ名前から構造が想像できるように名前を決める。
・全ての有機化合物の母体となる炭化水素の構造の名前を決める。
・母体となる炭化水素の水素原子と置き換わった原子、または原子の集合を置換基という。
・この置換基の中で、化合物の反応性や性質を示す原子、原子の集合体を特性基という。
・IUPAC規則が決まる前から使われている名前で、広く認知されているものはそのまま使用する(例:トルエン、キシレン)。
・炭化水素の水素原子を特性基で置換したことを表すときには、置換命名法を使う。
・炭化水素から水素原子が失われた基と官能基としての特性基が結合して化合物ができた場合は、基官能命名法を使う。

初めて読むとかなり難しく感じると思います。が、高校化学の有機の学習を進めた後にこれを読むと、かなり納得しやすくなります。

炭化水素

炭化水素は、炭素と水素で構成されている化合物です。鎖状か環状が、飽和か不飽和かで分類されています。鎖状とは鎖のように長々とつながっている、環状は輪を作るように結合していることです。飽和とは、炭素原子同士が全て単結合のもの、二重結合、三重結合を含むものは、不飽和と分類されます。

この炭化水素は、アルカン、アルケン、アルキン、シクロアルカンに分類されます。

アルカンは、CnH2n+2(nは自然数)、アルケンは、CnH2n、アルキンはCnH2n-2、シクロアルカンはCnH2nです。

アルカンに分類される化合物は、語尾が「アン」になります。メタン、エタン、プロパン、ブタンなどがこれにあたります。しかし、語尾が「アン」ではありませんよね。これは、語尾のアンは英語の「ane」だからです。挙げた化合物の名前を見ると、メタンの語尾は、「タン」です。このタンのタは母音がアです。つまり、ブタ(ア)ンになります。

同様に、エタ(ア)ン、プロパ(ア)ン、と最後から2つめの音の母音が全てアになっているのです。

同様に、アルケンの場合は「エン」または「イレン」になります。エテンはエテ(エ)ン、別名をエチレン、つまりエチ(イ)レン、プロペ(エ)ン、別名プロピ(イ)レン、となります。

アルキンは、語尾がインになります。ブチ(イ)ン、ペンチ(イ)ンが代表的な化合物です。命名法は基本的に英語をベースにしているので、このようなことになるのですが、試験などで解答する際は、エチレン、と書きましょう。エチ(イ)レンなどと書くと、誤答になります。

シクロアルカンは、シクロ+アルカンで構成されています。このシクロが付いていると、構造的には環状になります。シクロという言葉が付いていれば、構造は環状になるのだな、と覚えて下さい。

芳香族炭化水素

ベンゼン環
炭化水素の中でも、ベンゼン、C6H6は特徴的な環状の構造をしています。図に示した形をしており、このベンゼン環を持つ化合物を芳香族炭化水素と呼びます。

ベンゼン環は六角形で、それぞれの角に水素があります。この水素が別の原子、または原子の集合体で置き換わることがあります。置き換わりが2箇所で起こったとき、起こった場所の組み合わせによって、化合物の名前で法則性があります。

異性体

まず、置き換わった2箇所が隣り合っている角の時、この場合は「オルト」と呼びます。置き換わる原子、原子の集合体が2つとも同じ時、っこの化合物をオルト異性体と言います。物質名を表記するときには、物質名の前にオルトのoを付けます。

2つの置き換わりが、角を1つ挟んでいる場合、これを「メタ」と呼びます。異性体の場合は、メタ異性体と言います。物質名の前には、メタのmをつけます。

そして、2つの置き換わりが正反対の場所で起こったとき、これは「パラ」と呼びます。異性体の場合はパラ異性体と言います。この命名方法は、置換された場所を明確にするためのものです。

ベンゼン環が2つつながると、ナフタレンになります。ナフタレンの水素原子が1つ塩素に置き換わるとクロロナフタレンになります。しかし、置き換わる場所が必ずここ、というわけではありません。

クロロナフタレン

図に示したように、2つの異性体が存在します。この時、ナフタレンの炭素にはそれぞれ位置番号が決められているので、それに従って名前を付けます。

左側は位置番号1に塩素が付いていますので、位置番号を物質名の前に付けて、1-クロロナフタレンとなります。向かって右の場合は、位置番号2に塩素が付いているので、2-クロロナフタレンと名前が付けられます。

ここで解説したのは、「置換された原子、原子の集合体の位置関係による命名法」と、「置換された場所による命名法」です。

アルコール

炭化水素は炭素と水素から構成される有機化合物ですが、アルコールになると、酸素が加わります。具体的には、アルカンの水素原子を、ヒドロキシ基(-OH)で置換したものです。

まず、ヒドロキシ基(-OH)の数によって呼び方が変わります。1分子の中にヒドロキシ基が1個あると、1価アルコール、2つあると2価アルコール、3つあると3価アルコールと呼びます。

また、1価アルコールと、2価以上のアルコールを大きく分けて、1価アルコール、多価アルコールという分類もあります。

アルカンにヒドロキシ基が付くとアルコールになりますが、1価、2価、3価で法則があります。

1価の場合は、語尾にオールがつきます。つまりメタンにヒドロキシ基だと、メタン+オールで、メタンオール。メタンは英語で書くとnで終わります。そしてオールはoで始まります。ですので、nとoをつなげて「ノ」と読みます。そうなると、メタンオールは、メタノールとなります。

エタン、プロパンの時も同様です。オールを付けて英語読みを考えると、エタノール、プロパノールとなります。

2価アルコールの場合は、ジオールを付けます。これはジ+オールを意味しており、ジは2つという意味です。

メタンの場合は、メタンジオール、エタンの場合はエタンジオールになります。ここでは、どこの炭素にヒドロキシ基が付いているかも名前で示さなければなりません。

エタンがエタンジオールになる場合、位置番号が1と2の炭素にヒドロキシ基が付いているので、1,2-エタンジオール(別名エチレングルコール)と呼びます。位置番号1の炭素に2つのヒドロキシ基が付いている場合は、1,1-エタンジオールとなります。

3価アルコールは、トリオールを付けます。トリ+オールのトリはトリオ、つまり3を表します。

2価アルコールと同様に、ヒドロキシ基が結合する炭素の位置によって物質名の前に番号を付けます。例えばグリセリンを別名で表すと、位置番号1、2、3番にヒドロキシ基が付いているので、1,2,3-プロパントリオールという名前になります。

ヒドロキシ基は炭素原子に結合してアルコールを構成します。ここまでは、どの位置の炭素にヒドロキシ基が結合しているか、何個ヒドロキシ基が結合しているか、で解説してきました。さらに、この結合された炭素原子に、他の炭素原子がいくつ結合しているかによっても呼び方が変わります。

ヒドロキシ基が結合している炭素が、他の炭素と結合していない、または1つの炭素原子と結合している場合は、第1級アルコールとなります。2つの場合は第2級アルコール、3つの場合は第3級アルコールとなります。

特性基を使った命名法

この記事の冒頭で説明した特性基によっても名前が決まります。特性基が複数ある場合、優先順位の高いものを主基として、優先順位の低いものを置換基とします。この優先順位は決まっており、1位:オニウムイオン、2位:酸、3位:酸誘導体、4位:ニトリル、5位:アルデヒド、6位:ケトン、7位:アルコール、8位:ヒドロペルオキシド、9位:アミンとなります。

もし、アルコール(-OH)と、アルデヒド(―CHO)があった場合、優先順位の高いアルデヒドが主基となり、アルコールは置換基となります。主基を示す言葉は物質名の後ろに付け(接尾語)、置換基を表す言葉は物質名の前に付けます(接頭語)。

代表的なものを見ていきましょう。

まずはカルボン酸(-COOH)です。接頭語の場合はカルボキシが使われ、接尾語の場合は、カルボン酸、または単純に酸がつきます。接頭語の場合はカルボキシ○○○○、接尾語の場合は、○○○○○○カルボン酸、となります。

スルホン酸(-SO3)は接頭語としてスルホ、接尾語としてスルボン酸が使われます。スルホンですが、接尾語になるとスルボンと濁点がつきます。

炭素と窒素の三重結合によって構成されるニトリルは、接頭語ではシアノ、接尾語ではカルボニトリル、またはニトリルが使われます。ケトンの場合は、接頭語がアシル、またはオキソ、接尾語がオンです。

より具体的な化合物名で見てみましょう。

2-メルカプトエタノールという物質があります。あまりなじみはない物質だと思いますが、生命科学の分野では非常によく使われる物質です。エタンにヒドロキシ基(-OH)が結合し、位置番号2の炭素にチオール基が結合しています。

ヒドロキシ基、またはアルコールは接頭語はヒドロキシ、接尾語はオール(1価でオール、2価でジオール、3価でトリオールですので、基本は“オール”になります)です。チオール基は、接頭語の時にはメルカプト、接尾語の場合はチオールです。

まず、ヒドロキシ基、アルコールとチオール基の特性基としての優先順位を調べると、ヒドロキシ基の方がチオール基よりも優先順位が高くなっています。ですので、ヒドロキシ基(アルコール)を表す言葉は、接尾語になりますので、“オール”が使われ、エタン+オールでメタノールとなります。

そうなりますと、チオール基を表す言葉は接頭語、つまり物質名の前に使われます。よって、メルカプトエタノール。チオール基は位置番号2の炭素に結合しているので、2-メルカプトエタノールとなります。

命名法の法則

IUPAC命名法には法則が存在し、それに則って化合物は命名されます。

命名は3つの部分に分けられます。

まずは接頭語です。接頭語には、数と置換基が入ります。数は、炭素の位置番号などが使われます。そして次に語幹が入ります。この語幹は、化合物の主鎖と炭素数です。主鎖は、化合物の中心をなす部分です。骨格と言っても差し支えありません。最後に接尾語が入ります。接尾語は、数と官能基が入ります。官能基はこの記事では主基と表現してあります。

接頭語と接尾語に何が入るかについては、特性基の優先順位で決まります。優先順位は決められているので、覚えるだけで対応できます。

接頭語+語幹+接尾語、によって有機化合物の名前は決まります。そして主鎖の決定方法ですが、これもキッチリ決められています。

主鎖の決定方法は、
1主基(優先順位が最も高い官能基)を最も多く含む鎖。
2不飽和結合(二重結合、三重結合などの多重結合)を最も多く含む鎖。
3骨格炭素原子数が最も多い鎖。
4二重結合が最も多い鎖。
5主基、または不飽和結合の位置番号が最も小さくなる鎖。
この順番で決められます。

1と3が別々にあったとしたら、1の条件に当てはまる鎖が優先され、主鎖となります。

命名法を覚える利点

高校化学における有機化学であれば、命名法を覚えなくても有機化合物の名前と構造を全て暗記して試験に対応することは不可能ではありません。

有機化合物の命名方法は公式的な性質もあるので、覚えることがおっくうの人もいるでしょう。しかも、命名法をある程度使えるようにするためには、高校化学の範囲を少しはみ出して学習しなければなりません。

しかし、命名法を身につけると大きな利点があります。

それは、有機化合物の構造式を知らなくても、命名法を知っていれば有機化合物の名前から構造を書き出すことができる場合が多いということです。

高校化学の教科書に掲載されていない命名法の法則であっても、学習して身につけておけば、定期試験、大学入試などに使うことができます。命名法を使って解いてはならないというルールはありません。

いかがでしたでしょうか?命名法は最初のうちはかなり難しく感じるかもしれません。

ただ、ここを我慢してクリアすると、有機化合物への苦手意識がかなり解消されます。それは、他の人が苦手とするところが克服でき、点差をつけやすくなるということです。

構造式を実際に書いてみて、どこがこうなっているからこういう名前になる、と手を動かしながら学習しましょう。
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